第19話
「リーゼ専属の護衛騎士が決まったから報告に来たんだ」
私の怒りを感じたのかようやく本題に入ってくれた。それにしても専属の護衛とは急な話ですね。
公爵令嬢で王太子の婚約者の身だ。常に複数の護衛が居るので専属は要らない気がする。
「これは王家の決定だ」
「王命という事ですか?」
「そこまではいかない。でも、リーゼは次期王太子妃だ。しっかりした警備が必要になる」
今でも十分な警備をされていると思う。
それに私自身もかなり強い方だ。専属を雇って貰う必要性を感じられない。
「私、結構強いですよ?」
「三年前にリーゼが誘拐された事を持ち出して騒ぐ人間が居るんだ。学園に入学する前に警備を万全にするべきだってね」
誘拐事件の話を持ち出す人がまだ居たんですね。
あの件に関してはわざと誘拐されたけど狂言誘拐というわけではない。私を誘拐した犯人達は他にも多くの誘拐事件を起こしていた。被害者の多くが良家の子供だった事から彼らの末路は凄惨なものだった。
当時も大騒ぎだったけど今も騒ぐ人が居るらしい。
「わざと誘拐されたのですけどね」
「他の者はそれを知らないから」
「公表出来るわけないだろ」
「分かっていますよ、お兄様」
筆頭公爵家の娘がわざと誘拐されましたと言うわけにはいかない。知っている人はごく一部の人間だ。
私が傷物となったのでは?という噂を流そうとした人達は親馬鹿な人がすぐに片付けてくれました。
「それにしても専属護衛ですか。女性ですよね?」
「リーゼの専属護衛に男を付けると思う?」
念の為に確認を取ると真っ黒な笑みが返ってくる。
聞く必要はなかったですね。
「そこに関しては気が合いますね、ベルン」
「私も殿下の意見に賛成です」
普段睨み合っているのに時々徒党を組むのは何なのでしょうか。
仲が良いのは良い事なので何も言わないけど。
「勿論女の子だよ」
「それは良かったです」
男性が専属になるのは出来るだけ避けたい。
叶う事ならベルンハルトに護って貰いたいところだけど彼も護衛対象だ。無理に決まっている。
そう考えると私が彼を護ってあげたいですね。
「悪いけど選考はこちらでやらせてもらった」
こちらって事は王家が決めたって事ですよね。
私の為にそこまでしてくれなくても良いのに。
そう思うがこれでも次期王太子妃、いずれは王妃となる身だ。仕方ない事なのだろう。
「最終選考の審査員を担当したのはランベルトとテオバルトだけどね」
ランベルトは私の父の名前。
そしてテオバルトはこの国の騎士団長。ユリアーナとディルクの父親、フランメ伯爵の名前だ。
「お父様とフランメ騎士団長が?」
「魔法の腕はランベルトが、剣の腕はテオバルトが見たって感じだね」
父は頭で戦う軍師タイプ。
現場で戦う事は滅多にないが筆頭公爵として恥じない魔法の腕を持っている。
フランメ伯爵は騎士団長を務めているだけであって剣の腕が国一番だ。国を挙げての剣術大会では十年間負けなし。数年前に殿堂入りを果たした。
「二人に勝てる人は居なさそうですね」
筆頭公爵と騎士団長が最終選考の審査員とは選考を受けてくれた人達はきっと絶望しただろう。
「リーゼの護衛騎士になる子は勝ったよ。ハンデがあったけどね」
どれだけ強いのだ。
戸惑っている私にベルンハルトが言葉を続ける。
「実は今日連れて来てるんだ」
「そうなのですか…」
いきなりの事なので緊張する。
専属護衛という事は長い付き合いになる。仲良く出来ると良いけど合わない人だったら最悪だ。
「大丈夫、良い人だよ」
私の緊張が伝わったのかアードリアンが言ってくる。
この様子だと既に会った事があるようだ。
「お兄様はもう会ったのですか?」
「えっ、うん、まぁ…」
歯切れが悪いですね。
もしかしてアードリアンとは合わない人だったのでしょうか?
「フィーネは会った?」
「お待ち頂く間のお茶を出して来ましたので」
既に顔を合わせているという事だ。つまり知らないのは私だけという事になる。
当事者なのに腑に落ちません。
「じゃあ、入って来て」
ベルンハルトの声に扉が大きく開いた。
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