第18話

「ベルン、さっさと大事な話をしてください」


話が進まなさそうなのでベルンハルトの名前を呼ぶ。

恋人を呼ぶような甘い感じするのはこの場に似つかわしくない。息子を呼ぶような、それこそ王妃様がベルンハルトを呼ぶように名前を呼ぶ。


「良かったですね。呼ばれましたよ…ふふ、ははっ…」

「アードリアン様、そんなに、ふふっ、笑ったら…その、失礼ですよ」


私の呼び方が面白かったのかアードリアンとフィーネの二人が笑い始める。ベルンハルトは納得いかないという顔をしているけど今回の場合は仕方ないと思う。


「リーゼ、ちゃんと呼んで」

「呼びましたよ」


だからさっさと話を進めて欲しい。

愕然とした様子のベルンハルトは「この前の可愛いリーゼはどこに行ったんだ」と呟く。

あれは二人きり限定の私だ。人前でいちゃいちゃするのは無理がある。


「私だって二人きりで仲良くしたいです」


これ以上拗ねられても困るので言ってあげると上目遣い気味に「二人で逃げよう?」と提案される。

逃げられるわけがないでしょうに。


「無理です」


逃げ出したら延々と追いかけて来そうな二人が一緒に居るのです。逃げ切れたところで父にバレたら今度は父までお茶会に参加してくるに違いない。

アードリアンが止めてくれたけど本当は今回も参加しようとしていたのだ。


「逃げる気ないの…」

「逃げ出したら次はお父様もお茶会に来ますよ」

「それは最悪だね」

「今の方が幸せですよ、きっと」


父まで来たら私の両隣は父とアードリアンの二人になるだろう。

ベルンハルトは向かい側の席になるでしょうね。

近くに居れないのは嫌です。


「これだけ聞かせて。本当に僕と仲良くしたいと思ってくれてる?」


何を馬鹿な質問をしているのだ。


「当たり前です。恋人になってまだ二週間ですよ。普通にいちゃ…いえ、仲良くしたいです」


危うくいちゃいちゃと言いかけるところだった。

私の返答に満面の笑みになるベルンハルト。嫌な予感がする。


「なるほど、イチャイチャしたいんだね」

「濁した事を言わないでください」


睨み付けるように言う。

そもそもアードリアンに抱き締められて、フィーネに手を握られてる状況でする話じゃない。


「可愛いなぁ。帰る時は抱き締めさせてね?」


恥ずかしい事を言わないで欲しい。怒ったアードリアンから冷気が出始めた。

夏場なので涼しくて良い感じですけど、度が過ぎると周囲凍りますからね。

その前に無魔法を発動させるから良いけど。


「ベルン、これ以上は許しませんよ」

「今は諦めてあげる。気分が良くなったから」

「さっさと大事な話をしてお帰りください」

「フィーネも許してあげる」


こんな事を思うのはどうかと思うけどベルンハルトってかなりちょろいのでは…。

そう思っていると「ちょろくないからね」と笑顔で言われた。相変わらず察しの良さに頬を引き攣る。


「今の一瞬で怖いに変わりましたよ」

「こんな僕は嫌い?」

「……好き、です」


恥ずかしい。羞恥プレイも良いところだ。真っ赤になった頰を両手で押さえているとガタッと音が響いた。

全員が音を立てて何処かしらをぶつけていましたけど、大丈夫でしょうか。


「僕のリーゼが可愛すぎる…」

「可愛い、僕の妹は世界一だ」

「私のリーゼ様は天使ですよ、天使!」


悶えながら言う三人。

一気にアホが増えましたね。

それにしても本当に話が進まない。


「良いからさっさと大事な話をしてください!」


叫ぶように言った。

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