第17話
ユリアーナに報告を済ませてから数日後ベルンハルトとの定期お茶会の日を迎えた。
恋人になって初めてのお茶会は珍しく室内で行われている。
「リーゼに大事な話があるんだ」
隣に座るベルンハルトはぴったりと身体を寄せながら恋人繋ぎをしてくる。
バカップル丸出しの光景だと思うが付き合いてなのですから許して欲しい。と言いたいところだけど恋人繋ぎは一方的なものである。ベルンハルトの指が私の手をぎゅっと握り締めているだけだ。
本当は私だって返したいし、この状況じゃなければ返してます。
「大事な話をするのにベタベタする必要はないだろ」
「お兄様!」
ベルンハルトを睨み付けたのはアードリアンだった。
そう、今日のお茶会は兄も一緒なのだ。
アードリアンがお茶会に参加している理由は簡単。
私が馬鹿正直にベルンハルトと付き合う事を家族に話してしまい父とアードリアンを怒らせてしまったせいである。しばらく二人きりのお茶会は許さないと言われてしまったのだ。
結果ベルンハルトとのお茶会は学園が休みの日に行われる事が決まった。
「私の大事なリーゼ様にベタベタするのはやめてください」
ベルンハルトと二人きりじゃないならとフィーネもお茶会の場に待機する事になった。
さっきから物凄い形相でベルンハルトを睨み付けている彼女は昔よりも態度が悪い。
正直な話をするなら侍女と兄から睨まれているのに平然としているベルンハルトが一番怖い。
どうして平然としていられるのだろうか。
「とりあえず聞いてくれ。あと数ヶ月で僕とリーゼも学園に入学するだろう?」
「そうですけど、その前に手を離して…」
「ん?」
アードリアンとフィーネが怖いので手を離してもらおうとしたのに。
甘い笑顔を向けてくる恋人に言葉を詰まらせる。
私、この顔に弱いんですよね。
「妹を誑かすな」
腕を引っ張られた。ベルンハルトと離れる代わりにもたれ掛かったのはアードリアンだ。約二週間ぶりに会った恋人と距離を取らされてしまう。
かなり寂しい。
しかし兄の体温も匂いも結構好きなので完全に悪い気にはならない。むしろ落ち着く。
「リーゼ様、手を拭きましょうね」
ハンカチを取り出したフィーネはベルンハルトと繋いでいた手を拭いてくる。
恋人を雑菌が扱いされて苦笑いだ。
「リーゼ、リアンと浮気かい?」
「違います。お兄様は家族なので落ち着くだけです」
「僕の側よりも落ち着くの?」
目が笑っていないベルンハルト。彼の独占欲の強さは知っているが少しだけ恐怖を感じる。
若干病んでいませんか?
「ベルン様…」
「リーゼ、呼び方が間違ってるよ?」
ベルンハルトの側はドキドキするから落ち着けない。
そう言おうと思ったのに言葉を遮られてしまう。
「お兄様の前なので…」
ベルンハルトと恋人になった事は話したが呼び捨てにする事になった話は家族にしていない。
話す前に父達が怒ってしまったからである。
何度か話す機会を伺っていたのだけど…。
ベルンハルトの名前を出すだけで父もアードリアンも話を聞かなくなるので話すタイミングがなかったのだ。
ただ母には言える範囲の事は全て伝えてある。というよりも母しか聞いてくれなかったのだ。
「妹に何を強要しているのですか」
「アードリアン様、殿下は名前で呼び捨てにして欲しいみたいです」
アードリアンの低い声に反応したのはフィーネだった。
彼女の察しの良さには脱帽しますね。
「なるほど。それなら僕が呼び捨てにしてあげますよ」
「僕はリーゼに呼ばれたいのだけど」
「遠慮しないでください、ベルン。ほら呼び捨てにしましたよ」
「リアンは昔から呼び捨てだろ」
目の前で繰り広げられる変な会話に溜め息を吐く。
「リーゼは呼ばなくて良いからね」
「僕とリーゼは恋人だ。呼び捨てでも不自然ではないだろ」
「恋人である事が不自然だと思いますよ」
「フィーネ、僕だって怒る事はあるよ?」
「彼女は正論を言っただけですよ?」
まだ阿保みたいな会話が続けられている。
くだらない事で王族と言い争う家族を見るのは今週で二度目だ。
一度目は母と王妃様の言い争いだった。
数日前に三人でお茶会をした際にベルンハルトとの事を話した。
そして王妃様から六年前のように「折角ベルンと恋人になったのだから私の事もお義母様と呼んで」とお願いされてのだ。
それに反応したのは母だった。
笑顔のまま「リーゼに母と呼ばれるのは私だけで良いですわ」と言い返す母に「どうせ近いうちに私の義娘になるの」と笑う王妃様。
そして母呼びについてのしょうもない喧嘩が始まったのだ。
微笑み合う二人の喧嘩は一時間以上続き。
最後は私が成人したら王妃様の事も『お義母様』と呼ぶ事を約束して終息を迎えた。
「リーゼ、早く呼び捨てにして」
「リーゼ、呼ばなくて良いよ」
「呼ばなくて良いですよ、リーゼ様」
フィーネはともかくベルンハルトとアードリアンのしょうもない喧嘩は血筋が原因なのだろうか。
何にしても話が進まないので止めさせましょう。
「ベルン、さっさと大事な話をしてください」
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