第16話

ベルンハルトと両想いになってから一週間。今日はユリアーナに報告をする為に来て貰った。


「随分とあっさり恋人になったのね」


じっと見つめてくる瞳から目を逸らす。

無事にベルンハルトと向き合う事が出来た話をすると彼女は深い深い溜め息を吐いた。そして呆れたような視線を送ってくる。

やっぱり呆れられましたね。

全部私が悪いので仕方ないですけど…。


「おめでとう」


優しい声色に顔を上げると穏やかな微笑みがこちらに向いていた。

今お祝いされました?

てっきり説教されるかと思ったのに。


「どうして驚くのよ。私がお祝いを言ったら変なの?」

「い、いえ。ただ、その、説教されると思っていたから」

「おめでたい報告に説教出来るほど私は冷たい人間じゃないわよ」


人の胸倉は掴むような人ですけどね。

そう思ったがあれは面倒臭くなっていた私が悪いので仕方ない。拗ねたような視線に苦笑いを返した。


「それにしてもベルンハルトに前世の話をするとは思わなかったわ」

「全てを話さないと向き合えないと思ったから」


信じてくれるかどうかは分からなかった。

ただ私を好きだと言ってくれた彼なら大丈夫だと私が信じたかったのだ。


「で、向き合った結果がバカップルってそれこそ馬鹿みたいな話よね」


ユリアーナの言葉がぐさりと胸に突き刺さる。

確かにその通りなので言い返せない。

彼女を見ると揶揄うような笑顔をこちらに向けていた。わざと私が嫌がるような事を言ったのだろう。


「バカップルで良いじゃない。イチャつく二人を知ったら主人公も手を出そうとは思わないでしょ」

「それはどうかしら」

「主人公が手を出したところでベルンハルトがリーゼ以外を好きになるとは思わないわよ。誰がどう見てもベタ惚れなんだから」

「…っ、そ、そうね…」


人から言われるとなかなかに恥ずかしいものだ。


「ベルンハルトって愛が重そうよね。大丈夫なの?」

「大丈夫というか。私も同じくらい重い気がする」

「見えないけど」

「中身は大人なのよ。必死に取り繕っているだけ」


ユリアーナの前では取り繕う事が出来てもベルンハルトの前では全然取り繕えないのだから困りものだ。


「確かに前世で恋愛経験がある身としては余裕そうに見せたいわね」

「前世の恋愛経験……」

「え?ないの?」


苦笑する私にユリアーナは驚いた表情を向けてくる。

そういえば前世の恋愛については彼女に話した事はなかった。

話す機会がなかっただけですけど。


「付き合っていた人は居たけど…恋愛感情があったわけじゃないの」

「どういう事?」

「付き合って欲しいと言われて付き合ったけど…好きになれなかったの」


前世の頃、付き合っていた相手は二歳上の幼馴染。

彼は兄弟がいない私にとっては兄のような存在だった。

向こうも私を妹のように可愛がってくれていたのに。

高校に入ってすぐの頃に彼から告白されたのだ。

その頃の私は恋愛感情というものが分からなかった。だから最初は断ろうと思った。

ただ幼馴染である彼を傷つけたくない気持ちもあって曖昧な気持ちのまま私は付き合う事を受け入れた。

付き合っているうちに恋愛感情が分かる日が来るかと思ったけど。彼を好きになれる事が出来ず交際五年目の春に別れを告げた。


「私が乙女ゲームを始めたのは恋愛感情を知ろうとする為だったの」


ゲームはゲームだと割り切っている部分もあって結局前世では知る事が出来なかった。

トルデリーゼになって初めて人を好きになったのだ。


「……意外な話ね」

「酷い話でしょ。好きでもないのに付き合って好意を寄せてくれていた人を傷付けたの」


傷付けたのに彼は別れた後も優しかった。幼馴染として、兄として接してくれていたのだ。

それなのにお別れも言えずに私は死んでしまった。

きっとまた傷付けたのだろう。


「辛いわね」

「大切な人だったのに大事に出来なかったの」


彼は今頃どうしているのだろう。

私の事を忘れて幸せになってくれていると良いのだけど…。


「後悔しているなら今世では大切な人を大事にしないとね」

「ベルンを傷付けるような真似はしないわ」


好きな人を幸せにする。

それが今の私に出来る事だ。


「傷付けたくないなら前世の恋愛話はしない方が賢明ね」

「そうね」


彼の独占欲の強さを知っている身としては過去の恋愛話をするのは危険だろう。


「ただ前世含めての初恋だって教えてあげるのはありでしょうね」


揶揄うように言ってくるユリアーナに苦笑いが漏れた。

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