幕間8※ベルンハルト視点
「話が進まないな」
話を進めたい気持ちはある。しかし進まない。
トルデリーゼが可愛過ぎるのがいけないのだ。
苦笑しながら告げると「そうですね…」と返される。
今はヴァッサァ公爵家の敷地内だから許されているけど外では絶対にこんな風に出来ないな。
「お気に入りの場所は置いておいて。攻略対象者と主人公には出会いイベントがあるの」
「出会いイベント?」
出会いイベントって何だ?
言葉の意味からして誰かと誰かが出会う事を言っているのだろうけど分からない。
「主人公と一番最初に出会う攻略対象者はベルンなのよ」
僕と主人公が出会う?
想像するだけで嫌気が差すのだけど。
「どこで会うんだ?」
「入学式の日の朝よ。校門を潜ってすぐのところで主人公がベルンハルトにぶつかって出会うの」
ぶつかって出会うっておかしくないか?
普通に歩いていたらぶつからないだろう。
それも気になるがベルンハルト呼びが気になって仕方ない。
「どんな出会いだよ。後どうしてベルンハルト呼びになっているのかな?」
「私の恋人のベルンとゲームのベルンハルトは別人だから」
現実の僕とゲームのベルンハルトを区別をつけてくれている事だけでも嬉しいのに。
さらりと言われた『私の恋人』という言葉にまた悶えそうになる。
「そうか…。というか私の恋人って…」
「話を続けるけど」
発言を拾われたくないのかトルデリーゼは僕の言葉を無視して話を続ける。また話が中断しそうになりそうだったので正直助かった。
「転んで怪我をした主人公をベルンハルトは医務室まで連れて行ってあげるの。お姫様抱っこで」
「ちょっと待って。どうしてゲームの僕はそんな非常識な奴を運んだの?」
自分からぶつかって来た女の子をどうして僕は助けたのだ。
周囲の誰かに任せるか放置すれば良いだろ。
「可愛いからじゃないですか?最後の方に一目惚れしたって言ってましたし」
戸惑う僕にトルデリーゼはしれっと答えた。
一目惚れしたからって非常識な人間を助けるな。
そう言ってやりたい気持ちでいっぱいだ。
「顔で判断したのか…。最低だな」
「ちなみに主人公と出会う時ベルンハルトの隣には悪役令嬢のトルデリーゼが居たわ。仲良くなかったので形式的に一緒に登校したのでしょうけど」
ゲームのベルンハルトは酷い愚か者だ。
いくら仲が悪かったとしても婚約者を無碍に扱うような真似はしない。それが貴族の責務というものだ。
それなのに婚約者を放置して非常識な女を助けるとは理解に苦しむ。
「婚約者を放置して主人公を助けたのか…」
「ゲームのベルンハルトの話だけどね」
「分かっているけど僕そっくりの奴だったのだろう?」
「そうですね」
トルデリーゼが区別をつけてくれているのに僕が惑わされてどうする。
「僕はそんな屑男に成り下がらないからな」
二度とゲームのベルンハルトと重ね合わせて欲しくなくて必死になって言うと苦笑いを返される。
「分かっているから…。二人で仲良く初登校しましょうね」
「勿論だ。その変な女が来ても助けない」
「はい」
そもそもぶつからせる気もない。
一人決意している僕を他所にトルデリーゼは考え込むような姿勢を見せる。
まだ何かあるのか。
「ベルン、ヒロインに魅了の力があったらどうしましょう」
「魅了?禁忌とされている魔法だよ。過去にそれが元で内乱が起こった事があるから」
魅了は人の心を意のままに操る闇魔法。
かなり珍しい魔法だが保持者は国内にも居る。ただし使用は固く禁止されている魔法だ。
使用が発覚した時点で重犯罪者として処分を受ける決まりとなっている。
「そうですよね」
「学園には魔法が使えないように魔道具が作動されているから不安になる事はない」
魅了は闇魔法である。何があったとしても学園内で使用する事は出来ないだろう。
しかし主人公が魅了魔法を保持している可能性があるとは。
調べてみる必要がありそうだ。
「そんなに心配ならシェーン伯爵の娘を調べさせよう」
「そこまでしなくても…」
「僕が知りたいんだ。敵は知っておく必要がある」
主人公はトルデリーゼに危機を与える存在である可能性がある。すなわち僕の敵だ。
仮に敵として認識していなくとも魅了の保持者と可能性があるなら王族として調べておく必要がある。
すぐに調査に向かわせるか。
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