幕間3※ベルンハルト視点

泣き崩れるトルデリーゼを引っ張って抱き締める。

愛しい人がずっと欲しかった言葉をくれたのだ。

我慢が出来るわけなかった。


「ようやく言ったね?」


僕の胸元に寄り添いながら首を傾げるトルデリーゼ。

どうやら何を言われているのか分からないようだ。


「記憶力の良いリーゼなら僕が六年前にしたプロポーズを覚えているよね?」


『リーゼ。僕の妻になって欲しい』

八歳の僕が行った最初のプロポーズ。あの頃は本気だと伝わらなかった。子供だから仕方ないけど。

僕のプロポーズを思い出したのだろうトルデリーゼは頰を赤く染めた。


「その後に僕が言った言葉も覚えているよね?」


かなり雑な対応に焚き付けられた僕は彼女にある言葉を言わせる事を決意したのだ。

思い出したのだろうトルデリーゼは「あ…」と声を漏らした。


「思い出してくれた?」

「はい…」


『いつか必ずリーゼから僕と結婚したいと言わせてやる』

あの頃は呆れたような視線を貰った。まるで言うわけがないだろうというような顔をしていたくせに。

過去の仕返しというわけではないがついつい好きな子を苛めたくなってしまう。


「ねぇ、リーゼ。さっき何て言った?」


一瞬で顔を真っ赤にするトルデリーゼは羞恥心から涙目になった。

六年前の事を思い出せるのだ。ついさっき行われた告白は更に鮮明に脳裏に甦るだろう。


「結婚したいって言ってくれたね」

「…そ、そう…でしたっけ」


誤魔化そうとしても無駄なのに可愛いな。

ついつい加虐心が煽られる。


「言ってくれたよね?それとも僕の聞き間違い?」

「…っ、言いましたっ!結婚したいって言いましたよ!」


自分で言わせたのだけどこれは不味いな。

恥ずかしがるトルデリーゼが可愛過ぎてしんどい。


「嬉しいなぁ」

「そうですか…」

「両想いなんだよ?嬉しくない?」


僕だけが舞い上がっているわけじゃないよね?

その気持ちを込めて問いかけるとトルデリーゼは睨みつけるようにこちらを見上げてくる。


「……嬉しいに決まってるでしょ。めちゃくちゃ嬉しいわよ!」


口調が完全に崩れている。

こっちが素なのか?素を僕に見せてくれているのか?


「そっちが素?」

「そうよ…。もう良いわ、貴方の前では取り繕うのはやめるわ。面倒だもの」


貴族は誰でも仮面を被るものだ。

ただ雑な対応をしてくるトルデリーゼは既に素を見せてくれていると思っていた。

大きな間違いだったのかとショックを受けるのと同時に本当の素を見せてくれた彼女に感情が昂る。


「……リーゼ、ごめん」


短い謝罪を紡ぎ、彼女の口をキスで塞ぐ。


「んっ…」


微かに漏れ出た甘い声に胸が熱くなる。

離れるとトルデリーゼは動揺しながら「なん、で…」と尋ねてきた。


「いや、何というか。素の君が見れたのが嬉しくて?」

「答えになってないような…」


答えと思われなくても間違いなくこれが答えなのだ。

素を見せて貰える事の嬉しさを彼女は分かっていなさ過ぎる。


「あ、許可なくキスしてごめん…」


小さい頃、勝手にキスして怒られた記憶を思い出す。

もうしないと約束した事も同時に甦った。

また怒られるだろうか?


「ベルン様」

「なに…んっ…!?」


ぴたりとくっ付いた唇。

僕からキスしたわけじゃない。トルデリーゼからのキスだった。

驚き戸惑う僕を見つめながら彼女は揶揄うように目を細める。


「え、あの…」


まさかトルデリーゼからキスして貰えるとは思わなかった。

いきなりの事についていけず恥ずかしさに顔を赤く染める。

これが苛めた仕返しなのだろう。ご褒美じゃないか。


「もう良いから……その、ベルン様の好きな時にしてもらっても」

「……嘘でしょ」


夢みたいだという意味で呟くとトルデリーゼは間髪入れずに「嘘じゃないですよ!」と言ってくる。

変な勘違いをさせてしまったらしい。

怒り出そうとする彼女の口をキスで塞ぐ。


「ごめん、そういう意味じゃなくて。その、この信じられない状況に対して言ったんだ」

「そ、そうですか…」


良かった、誤解は解けたらしい。


「凄く嬉しいから……あの、リーゼも好きな時にして」


トルデリーゼからもたくさんキスして貰いたい。

僕からもたくさんキスしたい。

彼女の頰に手を添えて顔を近づける。


「とりあえず、もう一回させて」


絶対に一回で済まないだろうとキスをした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る