第2話
「トルデリーゼ・フォン・ヴァッサァ!君との婚約を破棄する!」
大きな会場で大勢の人が見守る中、ベルンハルトは私ではない女の子の肩を抱きながら私にそう宣言する。
あぁ、また夢が始まった。
ベルンハルトの憎悪と敵意に満ちた表情。
それは私に向けられていた。
「君が彼女に対して行った悪行の数々をここで暴いてやろう!」
やってもいない行為をまるで私がやったかのように晒し上げられていく。
顔も知らない目撃者の証言が私を責めていく。
周囲の人からはヒソヒソと罵る声が聞こえ、ゴミを見るような目で見つめられる。
「君は国外追放だ!その薄汚い顔を二度と僕に見せるな!」
ベルンハルトは冷たく言い放った。
そして私は駆け付けた衛兵の人達によって会場を連れ出される。
助けてくれる人は、私の味方になってくれる人は誰も居なかった。
「違うのです!」
「私は何もやっていません!」
「助けてください、ベルン様!」
みっともなく何度もそう叫ぶ私。
しかし彼はもう私を見ていなかった。
彼の愛おしそうな笑顔は彼の隣に立つ女の子に向けられていた。
目を開けると薄暗い部屋だった。
場所はヴァッサァ公爵家の自室。
「……またこの夢」
今回で何回目なのだろう。
五回目を過ぎた頃からは数えなくなってしまったからその答えは分からない。
「なんでこんな夢を…」
勝手に流れていた涙をネグリジェの裾で乱暴に拭った。
良かった。枕には垂れていないみたい。
これなら誰も私が泣いていたなど気が付かない。音を立てないようにベッドから起き上がり、机に向かって歩く。
引き出しを開いて取り出すのは奥深くに眠らせておいた古びたノート。
ここ数ヶ月で何度も開いているからか癖が付いてしまったページを今日も捲った。
『ベルンハルトルート。悪役令嬢トルデリーゼ』
転生してすぐに書き出した幼い頃の自分の文字。それを指先でなぞった。
「やっぱり私はベルン様に断罪されるのかしら」
あの夢のように。
私は悪役令嬢として婚約者であるベルン様に嫌われてしまうのだろうか。
やってもいない事で責められてしまうのだろうか。
彼に嫌われる。
それを考えただけで胸が痛い。辛い。悲しい。
この気持ちは…。
駄目です、この気持ちを認めたら更に辛くなるに決まってますから。
溢れ出そうになる気持ちに蓋をするのと同時にノートを閉じた。
「そろそろフィーネが来る頃ね…」
彼女が来るまでにいつもの私に戻らないと彼女に心配をかけてしまうから。
「面倒ですが、頑張りましょう」
その顔は面倒と思っている顔ではなかった気がする。
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