第28話
「私は忘れた事なかったのに」
あれ?今何を言ったの?
これだと私にとってファーストキスが大切な思い出みたいじゃないですか。
ベルンハルトも、王妃様も他のみんなも驚いた顔をしています。
「えっと、それがリーゼちゃんの許せなかったこと?」
「……はい」
今更嘘を吐くわけにもいきませんからね。
小さな声で頷いた。
「リーゼ、ちょっと来て」
ベルンハルトに腕を引っ張られて会場を後にする。
会場を抜け出すって色々と良くないと思うのですが王子なので許されるのでしょうか。
「会場の方は大丈夫。上手く誤魔化してもらえるよ」
「でも…」
「それよりも僕はリーゼと話がしたいんだ」
私は話す事ないのですけど。
ベルンハルトの必死な様子に負けて黙ってついて行く事にする。連れて来られたのは会場から少しだけ離れたところにある温室。
王族しか入れない場所の一つだったはず。二人で話すにはもってこいの場所だけど私が入っても良いのだろうか。
ベルンハルトが一緒なので問題ないのでしょう。
「……その、キスの事を忘れているように振る舞ったのはごめん」
無言を破ったのはベルンハルトだった。
「それは私が勘違いした事ですから。言い方も悪かったですし…」
「それでも泣かせそうになったから…」
確かに泣きそうになりましたよ。
辛かったです。
「リーゼにとって嫌な思い出だったかもしれないけど、僕にとって君とのキスは大切な思い出なんだ」
「はい…」
「だから『身勝手な事』扱いされるとは思っていなくて…。勝手にしたのにごめん」
確かに自分の中で良い思い出として残っていたなら、相手から『身勝手な事』と言われても分からないと思う。だから、今回は言い方が悪かった私が悪いのです。
「すみません…」
「自分の中で都合良くいい思い出にしてリーゼの事を考えなかった僕が悪い」
「ベルン様は悪くないです。悪いのは私です」
もし私が前世の記憶を持っていないトルデリーゼだったらキスを喜んだのかもしれない。
でも、私は前世の記憶があって自分が悪役令嬢だと知っているから素直に喜べなかった。
「これは終わりが見えないな。もうやめようか」
「はい…」
ベルンハルトから言い出してもらえたのは助かります。
「リーゼ、一つ聞いてもいい?」
「何でしょうか…」
「僕とのキスはリーゼにとって嫌な思い出?」
ベルンハルトとのキスの思い出。
今の私にとっては…。
「……『身勝手な事』だと言いましたけど、別に嫌な思い出じゃないです」
良い思い出になりつつある。
でも、それは声には出せなかった。
出してはいけないと思いました。だって、私は悪役令嬢なのだから。
そんな風に思ってはいけないのです。
「そっか。それは良かった」
嬉しそうに笑う姿に私まで嬉しくなります。
でも、胸の奥が少しだけ痛みました。
違う、そうじゃない。
これは本当に恋じゃありません。
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第2章はここで終了です。
第3章は学園入学編の前日譚。かなり短めの話になります。
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