幕間12※ベルンハルト視点

トルデリーゼの発言に場の空気が固まる。


「あらあら、そんな事があったの?」

「ベルン、そういう事は同意を得てからしないと…。本当に陛下そっくりね」


固まった空気を崩したのは先程まで怒っていた母上とイザベラだった。

何故か楽しそうに笑っている。


「ユリア、ファーストキスって大事なのか?」

「女の子にとっては特別です。もし私が勝手にキスをされたらディルクお兄様はどう思うのですか…!」

「それは許せない。絶対に許せない!」

「でしょう!」


ディルクとユリアーナ嬢は小さな声で会話を繰り広げていた。

ユリアーナ嬢が若干可哀想なものを見る目で見つめてきた気がする。


「許さない…」


ついにフィーネの怒りの声が届いた。

そろそろ彼女に殺されるかもしれないな。


「き、きす…って…」


エリーアスだけは真っ赤になって恥ずかしがっていた。

この反応が普通だろう。

しかし、あのファーストキスは彼女の中で『身勝手な事』扱いだったのか。

確かに自分本位な形で奪ってしまったが…。


「あの事か…」


力なく呟いた。

実際、力が全く入らなかった。


「思い出しましたか?」


思い出すも何も忘れていないに決まってるだろ。

あれは僕の大切な思い出だ。


「わ、忘れていません。ただ、その…」 

「私の言う『身勝手な事』に含まれてないと思ったのですか?」


その通りだった。

目を逸らしつつ頷けばトルデリーゼはどこか安心したような顔をする。

どうして安心するのだろう。


「ベルン、どういう事ですか?」


周囲の気温が下がる。

犯人はアードリアンだった。

こっちを睨んでる。目で人を殺せるんじゃないかってくらい怖い。


「リーゼ、お願いですから助けてください…」

「嫌です」


断るの早くないか?

僕達は婚約者だろう。


「リアン、そこまで怒る事じゃないわ」

「お母様!」


暴走しかけるアードリアンを止めたのはイザベラだった。


「そうそう。いつかはベルンに奪われていたのだからちょっと早まっただけよ」


全くもってその通りだが、生々しいからやめて欲しい。


「だけど同意も得ずに奪うのは駄目よ?」


笑顔で言われて、頷くしかなかった。


「反省してます…」

「この通り、反省しているみたいだから許してあげてね。リーゼちゃん」


母上が苦笑いを向けるとトルデリーゼは首を横に振った。


「キスをした事はもう許しています。私が許せなかったのは…」

「許せなかったのは?」


皆が聞きたかった事を代表して聞いたのは母上だった。

許せなかったのは何だ。

ちゃんと謝るから教えてくれ。


「ベルン様がキスした事を忘れていた。それが許せなかっただけです」


は?どういう事だ?

僕にキスをされたのは彼女にとっては『身勝手な事』と言わせてしまうほど嫌な思い出のはず。

それなのに今の彼女の発言はキスを忘れて欲しくなかったと言っているように聞こえる。


「私は忘れた事なかったのに」


その言葉に僕は堪えられなかった。

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