第27話

場の空気が固まるとはこういう事を言うのでしょう。

私の発言に全員が黙り込んだ。


「あらあら、そんな事があったの?」


最初に言葉を発したのは母だった。

驚いた表情をベルンハルトに向ける。


「ベルン、そういう事は同意を得てからしないと…。本当に陛下そっくりね」


さっきまで怒っていた王妃様は呆れた表情を作った。陛下に飛び火してしまったのは申し訳ない話だ。

二人は顔を見合わせると少しだけ笑ってみせる。

大人からしたらこういう話は楽しいものですからね、仕方ないです。


「ユリア、ファーストキスって大事なのか?」

「女の子にとっては特別なものです」


ユリアーナから「聞いてないわよ」という視線を向けられるので苦笑いを返した。

言うタイミングが無かっただけです。


「もし私が勝手にキスをされたらディルクお兄様はどう思うのですか…!」

「それは許せない。絶対に許せない!」

「でしょう!」


必死になるディルクに満足気に笑うのはどうかと思う。

それから勝手にキスするのは許せない事だ。


「許さない…」


ついにフィーネが怒りを声に出しちゃいました。どうしましょう、不敬罪ですよ。


「き、きす…って…」


純情少年エリーアスは真っ赤になりながら混乱してみせた。

普通の子ならこの反応が普通ですよ。


「あの事か…」


私のファーストキスを奪った張本人は力なく呟きました。口調も崩れちゃってますね。


「思い出しましたか?」

「わ、忘れていません。ただ、その…」 

「私の言う『身勝手な事』に含まれてないと思ったのですか?」


気まずそうに頷かれました。

そっか、ベルンハルトは忘れてなかったのですね。

それは良かった……いや、良くないです。どうして安心しかけたのでしょうか。

身勝手な事として記憶しておいてくださいよ。


「ベルン、どういう事ですか?」


気温が下がりましたね。

アードリアンが冷気を発生させているせいだ。


「リーゼ、お願いですから助けてください…」

「嫌です」


アードリアンが怖いのか知りませんが怯えたように言ってくるベルンハルト。

嫌ですよ、自業自得じゃないですか。

この場の原因を作ったのは私ですけどね。


「リアン、そこまで怒る事じゃないわ」

「母様!」


暴走しかけるアードリアンを止めたのは私の母だった。

怒る事じゃないって私はファーストキスを奪われたのですけど。


「そうそう。いつかはベルンに奪われていたのだからちょっと早まっただけよ」


王妃様が笑いながら言う。

無事に結婚出来ればそうですね。

私は浮気とか裏切りが大嫌いな性格なので結婚が決まった相手がいるのなら恋人っぽい事はその人としかしませんよ。


「だけど同意も得ずに奪うのは駄目よ?」

「反省してます…」

「この通り、反省しているみたいだから許してあげてね。リーゼちゃん」


王妃様に苦笑いを向けられてしまいます。


「キスをした事はもう許しています。私が許せなかったのは…」

「許せなかったのは?」


正直ファーストキスの事は本当に許しています。

キスの件は私の中でベルンハルトを一番にする事が出来ない言い訳に使ったに過ぎないのだから。

私が悲しかったのは…。


「ベルン様がキスした事を忘れていた。それが許せなかっただけです」


最悪な形で奪われましたし、あり得ないと思いました。つい最近まで警戒してましたけど別に嫌ではなかった……と思います。


「私は忘れた事なかったのに」


実際は覚えていたみたいなので、勘違いした私も悪かったですよね。



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