第26話

「べ、ベルン様…」


いつからそこに居たのだろうか。

ベルンハルトよりユリアーナの方が好きだと言ったのを聞いていたのは間違いない。


「君がユリアーナ嬢を一番の親友だと言っていたところから居ましたよ」


心を読むのは王家にとって必須のスキルなのでしょうか。もしそうだとしたら私は王家に嫁ぐのは無理ですね。今からでも婚約解消をして欲しいです。


「ベルン様、可哀想ですね…」

「ベルン様、元気出して…ください」


アードリアンとディルクが笑いを堪えながら言った。堪えられていないけど。

王妃様の前だから様付けなのでしょうが馬鹿にしてるように聞こえますね。フィーネに至っては顔を逸らして笑ってますよ。

エリーアスはどうしたら良いのか分からないようだ。私も同じだ。


「いや、あの…」

「リーゼ」

「はい!」


反射的に姿勢を正しました。いや、最初から正していましたけどね。


「僕はリーゼが一番ですよ?」

「いや、あの…」


助けを求めようとユリアーナを見ると呆れた顔で目を逸らされた。

さっきの仕返しでしょうか。


「僕はリーゼの一番になれませんか?」


人前でそういう事を言わないで欲しい。

そもそもユリアーナとベルンハルトでは立っている場所が最初から違うのだ。比べる事自体が間違っている。

それに忘れたとは言わせませんよ。


「あ、あんな身勝手な事をした人がそういう事を言わないでください!」

「身勝手な事…?」


まさか忘れたのですか?

勝手に人にキスをしておいて、ファーストキスを奪っておいて忘れたと本気で言うのですか?


「忘れたのですか?」

「身勝手な事ですよね?思い当たる事がないのですが…」


嘘ですよね。

記憶力が良いくせに忘れたのですか?

ベルンハルトにとってはそれくらいの事だったのでしょうか。


「何故、泣きそうになっているのですか…」

「ベルン。貴方、リーゼちゃんに何をしたの?」

「ベルン様、事と次第によっては父に相談しますよ」


王妃様とアードリアンが思い切りベルンハルトを睨み付けた。

何も言っていないがエリーアスとフィーネも彼を睨んでいる。かなりの不敬ですよ。


「ベルン様、何をしたか知らないが謝った方が良いじゃないですか?」

「悪い事をしたら謝るべきだと思いますよ」


フランメ兄妹は王妃様の前で謝らせようとしないで欲しい。

そういえばユリアーナにキスの件を話していなかったですね。話し辛かったので仕方ないですけど。


「ベルンハルト殿下、リーゼを傷付けるような真似をしたのですか?」


みんな怒った雰囲気を身に纏っていますがうちの母親が一番やばいかもしれない。

睨んでいないし、笑っているのに怖いです。

溢れかけていた涙も引っ込んでしまいました。


「えっと、その…」


一人追い詰められているベルンハルトに申し訳ない気持ちになるがキスの事を忘れているのは私も許せない。


「リーゼ…」


ベルンハルトが助けを求めて来ましたよ。

きっかけを作ったのが私でしたからね、ヒントくらいは与えても良いでしょう。


「本当に覚えてないのですか?」

「いや…」


考えてくれているようですが、思い出してくれませんね。言わないと伝わらないみたいです。


「私のファーストキスを勝手に奪ったくせに…」


言ってから失言だったと思いましたよ。

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