第16話
「おはようございます、リーゼ」
リビングに向かうとソファで紅茶を優雅に飲んでいるベルンハルトがいた。
ここ私の家ですよね?
どうして堂々と寛いでいるのでしょうか?
「どうして誰も殿下が来てる事を教えてくれなかったの?」
ベルンハルトを対応していた使用人を見ると真っ青な顔で目を逸らされましたよ。しかもお辞儀をすると全員逃げて行きました。
おそらく私に伝えなかったのはベルンハルトからの指示なのだろう。
逃げた使用人を追いかけたのはフィーネだ。
注意するために追いかけたのでしょうね。
リビングに残されたのは私とベルンハルトだけ。二人きりだ。
「サプライズだよ。驚いた?」
ベルンハルトを見ると悪戯が成功した悪餓鬼のような笑顔を見せてくる。初対面の時の陛下を思い出すのは当たり前の事。
やっぱり親子なのですね。
「おはようございます、ベルンハルト王太子殿下」
理由は知らないがベルンハルトは私に王太子殿下と呼ばれるのを嫌がる。
殆どの人に呼ばせているくせに私には呼ばせてくれないんです。
ちょっとした嫌がらせ返しだ。
嫌がらせをするのは子供みたいなのでどうかと思いますが身体は子供ですからね。
「……リーゼ、来ている事を伝えさせなかったのは悪かったから名前で呼んでくれ」
焦ったみたいですが嫌がらせは続行です。
「お待たせしてしまい申し訳ありません、ベルンハルト王太子殿下」
「本当に悪かった…。もうしない」
よく考えたら王族に謝らせてるってやばい状況ですよね。
そもそも簡単に頭を下げないで欲しい。下げさせたのは私ですけどね。
「怒ってませんから頭を上げてください」
「本当に?」
「本当です。ベルン様は王族なのですから簡単に頭を下げないでください。後が怖いので」
「僕が簡単に頭を下げる相手はリーゼくらいだよ」
さっきの笑顔とは比べられないくらいの笑顔を向けられます。
甘いです、甘い笑みですよ。
私を特別な人みたいな風に扱わないでください。
「どうして予定より早く来ているのですか?」
予定より三十分は早い。
どうなっているのだろうか。
「サプ……諸事情があって早めに迎えに来ました」
まだふざけようとするので睨むとしょんぼりしながら答えるベルンハルト。
「諸事情?問題でもあったのですか?」
「問題はないけど…。城に居ると早くにやって来た貴族達が挨拶をしたがるんだ…」
なるほど、と納得する。
この前も伯爵令嬢に追いかけ回されていましたね。あの時も王太子妃教育を受けていた私のところに逃げて来たんですよね。教師の人が困っていましたよ。
ちなみに彼を追いかけ回していたご令嬢はしばらく出禁になりました。
「だから、その、早くに来た事は本当に許してほしい」
「許してほしいと思うなら次からは来た事をすぐに知らせてください」
「サプライズは嫌なの?」
「嬉しいサプライズと嬉しくないサプライズがあります」
部屋を開けたらチョコレートがいっぱい。
そんなサプライズは大歓迎ですよ。
「いつかリーゼが嬉しいと思うサプライズをしてみたいな」
「……お待ちしております」
目を丸くするベルンハルトに首を傾げる。
驚く事を言ったのでしょうか?
「待っていたら変ですか?」
「リーゼの事だから『面倒なのでやめて下さい』って言うと思ったのに」
止めませんよ。
ベルンハルトが私を喜ばせようと思ってくれている事自体は嬉しいですからね。言ってあげませんけど。
「期待して待ってますね」
「その期待に応えられるように頑張るしかないね」
婚約破棄のサプライズは要りませんからね。
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