第13話
誘拐事件から一週間、わざと誘拐された件は父に物凄く怒られました。
屋敷に戻ったら自分で話すつもりだったのですが影が報告していたようで帰宅早々に執務室に呼び出されて五時間かけて大説教。
今世であの日ほど疲れた日はありませんね。
ですが、エリーアスの義母は無事に逮捕。犯罪奴隷に落とされる事が決まったようです。
もちろん闇オークションに関わった全員が捕まりました。捕まえるのに奔走したのはエリーアスの父であるシュタルカー侯爵だそうです。
捕まった人達のその後に関しては詳しく教えてもらっていません。というか教えてくれません。おそらく私の耳に入れたくないような悲惨な結末を迎えたのでしょう。自業自得なので同情はしません。
次の日、朝から早くからベルンハルトは屋敷にやって来ました。
ただでさえ疲れているというのに朝から物凄く怒られました。普通に帰るつもりだったので自分を犠牲にしたつもりはなかったんですけどね。
怒った後ずっとべったりしてくるベルンハルトにはちょっと困りましたよ。
そのせいで布団と友達になるまで時間がかかりました。
エリーアスはシュタルカー侯爵と話し合ったみたいで今ではすっかり仲良し親子に戻ったそうです。
時々ですが私のところに遊びに来てくれるようになりましたよ。
ただフィーネやアードリアンは私がエリーアスと仲良くするのを嫌がっているらしい。
それからベルンハルトもそうだ。
エリーアスが来る日は彼も一緒にやって来る。不思議な話だ。
側近候補と仲良くなりたいとかですかね。
ユリアーナが騎士になる件は本日聞かされる事になっているのだけど、その前に父から呼び出しを食らってしまった。
「リーゼ、話がある」
急な呼び出し。何か問題でもあったのでしょうか?
執務室に向かうと深刻な表情を浮かべる父がこちらをじっと見つめてくる。
「今回呼び出したのはお前の魔法についてだ」
「魔法?」
意外ですね。
私の魔法に関してはガブリエラ様に任せきりの父から魔法の話をされるとは思いませんでした。
「誘拐事件の時、犯人には魔法を使われなかったのだな?」
「使われませんでしたけど、それがどうかしましたか?」
私の魔法と誘拐事件に関わりがあるのでしょうか。
「そうか。では、誘拐事件の事は置いておこう」
どうしたのでしょうか?
いつもと違う様子の父に違和感を感じる。
何か話し辛い事でもあるのでしょうか。
「あのな、リーゼ」
「はい」
お父様の視線があっちこっちうろうろします。
全く私の方を見ようとしません。
五分程経った後、話す決心が出来たのか口を開きました。
「お前には水と氷、雷以外にもう一つ使う事が出来る魔法があるのだ」
はい?どういう事でしょうか?
私の魔法は水と氷と雷の三つで正しいはず。他の魔法を使えると教わった記憶はない。
「リーゼ、お前が使える魔法は無魔法だ」
「無魔法?」
「お前は全ての魔法を消し去る魔法が使えるのだ」
超展開ですね。
全ての魔法を消し去る魔法の話は聞いた事がない。教わった事もない。
どんな本にも載っていないはず。
「聞いた事がない魔法ですね…」
「無魔法は失われた魔法と呼ばれている。存在を知っている人間の方が少ないのだ」
失われた魔法?
ゲームのトルデリーゼに無魔法が使える設定はなかった。どうして特別な魔法が使えるのだろうか。
これってもしかしてお決まりのやつなのでしょうか?
転生ものでよく見られるチート能力。
あり得ますね…。
転生した時にその可能性を考えなかったのでしょう。
「そうですか…」
「驚かないのだな」
「驚きましたけど、あまり実感がないので」
「そうか。そうだな」
しかし私にもチート能力があったのですね。
でも、全ての魔法を消し去る魔法ですか。
使えても使い道が無さそうです。
魔法で攻撃された際は防げそうですけど別に無魔法を使わなくてもどうにかなりますし。
「それで、だな…」
「はい」
「無魔法を上手く使いこなせる訓練をして貰う事になりそうだ」
「それは当たり前ですね?」
普通の事だと思う。
失われた魔法であるなら国としても放って置けないでしょう。
調査するにしても本人が使いこなせてなければ調べるのも難しいですからね。
「今生きている者の中では誰も使った事がない魔法なのだ。資料もほとんど残されてない。どんな風に使うのが正しいのか模索するところから始めるのだぞ?頑張れるか?」
頑張るしかないですよね。頑張りたくないですけど仕方ないです。
下手に魔法が発動して、大勢の人にバレたら騒ぎになるだろうし隣国から狙われたりとかありがちな展開が待っていそうだ。
面倒ですが使いこなせるようになるしかない。
「頑張れると思いますが、どうして今まで教えてくれなかったのですか?知っていたのでしょう?」
この様子だとずっと前から知っていたに違いない。
知っている人は両親とガブリエラ様。それから国王夫妻も知っているのだろう。
ベルンハルトが知っているかどうかは微妙ですね。
「特別な魔法を使える事を知ったらお前が困ると思って…」
あぁ、なるほど。
普通だったら困りますね。納得も出来ないし信じられないと思います。しかし私はアニメや小説の知識がある前世持ちですからね。
チート能力の事をすっかり忘れていましたがこれくらいでは戸惑いませんよ。
「大丈夫です。使いこなしてみせます」
魔法で大事なのはイメージです。
相手の魔法を打ち消したいというイメージを使えば発動出来そうですし、魔法を消さないようにイメージすれば勝手に発動しないでしょう。
問題があるとすれば魔力消費量ぐらいですかね。どのくらい使うのか分からないので調整が必要そうだ。
「そ、そうか。なんか釈然としないが、頑張りなさい…」
父は悩みに悩んでこの話をしてくれたのでしょう。私があっさりと受け止めてしまったので戸惑っているのですね。
申し訳ない事をしました。
父への謝罪の気持ちを込めて、チート能力を使いこなしてみせましょう。
「頑張りますね、お父様」
「あ、あぁ…」
「ところで幾つか質問しても良いですか?」
父をじっと見つめると「勿論だ」という言葉が返ってくる。
「第一に私の魔法が四つである事を知っている人物は誰ですか?」
「私とベラ、ギャビー、陛下と王妃だな」
「ベルンハルト殿下は知らないのですね」
「……知らないな」
父の表情が一瞬だけ強張るのを捉える。
話せない事情がある事は察せられた。
質問をするべきところではないでしょう。
「第二に私が保持する魔法が四つであるからこそ王命での婚約が成立したのですか?」
「その通りだ」
四つの魔法を所持している人間は長い歴史をひっくり返してもおそらく私だけだ。
王家が秘匿にした可能性も考えられるけど調べようがないので置いておこう。
「最後に私の無魔法の力を悪用しようとは考えていませんよね?」
「あり得ない。もし王家がお前を利用しようとするならばヴァッサァ公爵家は国を敵に回す所存だ。そんな事はしないと誓ってくれているけどな」
父の言葉にホッと息を吐く。
人の役に立てるなら幾らでも力を貸しましょう。ですが誰かを傷つける為に力を振るうのは好みません。
「どこまでやれるか分かりませんが私なりに頑張ってみますね」
「苦労をかけてしまってすまない」
「力を持つ者の宿命ですよ」
ただ一人で抱えるのは無理がありますし、ユリアーナには相談させてもらいましょう。
話が終わったので部屋を出て行こうとすると呼び止められてしまった。
「リーゼ、リアンやベルンハルト殿下には話さない方が良い」
「理由は?」
「リアンは分かるだろ。ベルンハルト殿下は……まだ幼い。成長して野心が芽生えた彼にお前が利用される可能性が否めないからだ」
アードリアンは劣等感が強い人間だ。幼い頃のように仲違いを起こしてしまう事を危惧しているのだろう。
それから成長したベルンハルトが私を軍事利用する可能性がある事を言っているのだ。
こればかりは疑われても仕方ない。
「分かりました。他言無用にします」
「頼んだ」
一人を除いて、ですけどね。
ちょっとだけ嘘をついた私を許して欲しい。
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