幕間8※エリーアス視点

救出された僕が乗せられたのは王族の馬車。

保護と事情聴取の為に王城に連れて行かれているのだ。

目の前にいる人物と何か話さなくては。

そう思うのに上手く出来ない。


「緊張してますか?」

「ベルンハルト王太子殿下と二人というのは緊張します」

「そうですか。すみません」


リーゼと話していた時とはまるで別人のようだ。あれを見た後なら繕っていると分かる。そうじゃなかったら優しそうで物腰柔らかな王子様。


「城にて事情を聞かせていただけますね?」

「もちろんです」

「貴方の父親も同席させます」


それはそうなるだろう。

実の息子は誘拐されて、後妻は闇オークションに関わっているのだから家の主人として呼ばれるのは当たり前だ。


「父は元気なのですか?」

「もしかして会っていないのですか?」

「一年以上は会ってません。帰って来てませんから」


実母が死んだのが一年半前。

すぐに後妻がやって来て家を乗っ取られた。

父は跡継ぎの予備が欲しかっただけなのか後妻との間に子を作った途端に屋敷に寄り付かなくなった。


「君の父親は元気…ではなさそうですね」

「でしょうね」


父は最愛の妻を亡くしたのだ。

仕方ないと分かっている。分かっていても少しくらいは僕に関心を向けて欲しかった。


「ところで質問なのですが、君の父親が現在の妻を娶った理由を知っていますか?」

「知りません。跡継ぎの予備が欲しかったのでは?」

「私から全てをお話する事は出来ません。直接聞くのが良いでしょう」


何か知っているのか。

よく考えてみれば母様を亡くした父様はどうしてあの女を家に招き入れたのだろう。

我が家は侯爵家。それなりの家柄でなければ婚姻は難しいのに。


「着きましたね」

「あの、こんな身なりでいいのでしょうか」


僕の身なりは王城には相応しくないほど見窄らしい。

入って良いのかと戸惑っているとベルンハルト殿下は笑いかけてくれた。


「僕も今日は平民の格好です。それに裏口から入るので問題ありませんよ」

「分かりました…」


優しい人だ。こんなに優しい人に愛されているのだからリーゼも優しいのだろう。

いや、逆かもしれないな。

リーゼが優しいから彼も優しくなったのかもしれない。

知らないのでなにも言えないけど。


「じゃあ、行きましょうか」


前を歩く彼に続いて歩く。

初めて入る王城はあまりにも壮観で、やはり僕の格好は相応しくないと思う。

彼が一つの部屋の前で止まり、扉を叩いてから入った。続いて入れば、固まった。

父が居るのは分かっていた。だが、国王陛下までいらっしゃるとは聞いてない。


「父上、またですか…」

「サプライズだ。と言いたいところだが私が居た方が良いだろう?」


ニヤッと笑ったかと思ったらすぐに真剣な表情に変わる陛下。

挨拶をしなくては…。


「君がジルの息子か?可哀想に窶れてしまっているではないか」


ジル。僕の父様のことだろう。

名前はジルヴェスター・フォン・シュタルカー。陛下とは学園時代からの知り合いというのは知っていた。


「リアス、挨拶を」


ベルンハルト殿下にその愛称で呼ばれるとは思わなかった。

いや、驚いている場合ではない。


「エリーアス・フォン・シュタルカーです」


挨拶が終わり、チラッと父様を見るが俯いていて表情は分からなかった。


「エリーアス君。そこに座りなさい」

「はい」


そう言われて、父様の前に座り込む。


「悪いが君が知っている話を全て聞かせてもらえるかな」


僕は小さく頷いて話を始めた。

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