幕間7※エリーアス視点

「リーゼ、大丈夫か?怪我は?こんな物まで付けられて…」


入ってきた男の子は僕のことなんか気にせずリーゼに付けられていた魔力封じを取り外した。

慣れた手つきだ。彼も付けられたことがあるのだろうか。

それにしても本気でリーゼを心配している。

彼にとってリーゼがどれだけ大切なのかを目の前で見せられている気分になってくる。


「大丈夫ですし、怪我もありません。助けが来るって信じてましたから」


そう言って笑うリーゼ。

先程まで薄暗くて見えなかった表情。扉が開いていることによって今はハッキリと見える。

彼女の笑顔は愛らしかった。でも、向けられている相手は僕じゃない。


「私を拐った人達は?」

「もう捕まえたよ。大丈夫だ」


彼はリーゼを安心させるかのように抱き締めていた。

その行動に僕は驚いた。

許可なく女の子を抱き締めるなんて。


「ベルン様、離してください」

「嫌だ」

「見られていますから!」

「見られている?誰に?」


入ってきた男の子はリーゼの視線を追って僕を見た。

そして彼女にバレないように僕を思い切り睨んだ。


「あいつは…?リーゼ、なにもされてないよね?」


するわけないだろ。


「されてません」

「胸元が乱れてる」

「このペンダントを取り出したんです。ベルン様こそ変なところを見るのはやめてください」

「ご、ごめん…」


リーゼに睨まれて恥ずかしそうに顔を逸らしていた。

僕はなにを見せられているのだろうか。。


「あ、あの…」

「君は誰ですか?」


僕が話しかけると彼の口調が変わった。


「エリーアス・フォン・シュタルカーです…」


名乗ると男の子の表情が驚いたものに変化する。


「シュタルカー侯爵のご子息ですよね?」

「はい…。えっと、貴方は」


僕を知っているのか。彼は誰なんだ。


「ベルンハルト・フォン・シュトラールです」


名前を聞いて固まった。

だって、その名は…。


「ベルン……ハルト……王太子殿下?」

「そうです」


驚く僕にしれっと答えるベルンハルト殿下。

確か殿下の髪の色は金髪のはず。でも今の彼は黒髪だ。どうなっているのだ。


「でも髪の色が…」

「今は髪の色を変えていますけど本来は金髪です」


彼がベルンハルト殿下だと言うのが事実であれば、彼に抱き締められたリーゼは…。


「じ、じゃあ、リーゼは…」


彼女を見ればベルンハルト殿下の腕を抜け出して優雅に礼をする。

これだけで高位貴族だと分かった。


「改めまして私はトルデリーゼ・フォン・ヴァッサァ。ヴァッサァ公爵家の娘でございます。私も髪の色を変えていますが本来は銀色です」


あぁ、やっぱりそうなんだ。

オルデンブルク家の宝と呼ばれる令嬢。

そして王太子殿下の最愛の婚約者。

それがリーゼなのだ。


「私の婚約者ですよ」


殿下は僕の気持ちに気付いて、牽制するために今の発言をしたのだろう。


「それ、今は関係ないですよね」

「……それはどうでしょう」


やっぱり僕の気持ちはバレている。

そして睨まれた。


「そっ、か…。リーゼ……いや、トルデリーゼ公爵令嬢…」


彼女の身分は僕よりも上だ。

生意気な口を聞いていたのが恥ずかしい。


「リーゼで良いですよ」


なんで、そんなこと…。

貴女は公爵家の宝で、未来の王妃。

僕は捨てられかけた侯爵子息。

それなのにどうして優しくしてくれるのですか。


「でも…」

「貴方は私の友人です。リーゼと呼んでください」


にこりと笑った彼女はやっぱり愛らしかった。

でも、僕は彼女にとって友人だ。当たり前だ、彼女にはベルンハルト殿下がいるのだから。友人と言ってもらえただけで満足するべきなのだろう。


「友人…。分かりました、ありがとうございます」


どこか寂しそうな顔をするリーゼ様。

そんな彼女を後ろから抱き締めたのは殿下だった。

あぁ、もう見ていられないな。


「浮気ですか?」

「くだらない事を言わないでください」

「じゃあ、こんな風に抱き締められるのは私だけですか?」

「私を抱き締める人なんて家族以外だと貴方だけですよ」

「そっか」


こんなにも仲の良い二人を引き裂こうだなんて絶対に無理だ。

僕の初恋は短い時間で散っていった。

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