幕間6※エリーアス視点
辛そうな表情は次第に物悲しげなものに変わっていく。
どうして彼女は僕のことで表情を変えるのだ。
どうして僕のことを思ってくれるように見せるのだろうか。
「助けたい…」
「は?」
小さく呟かれた言葉に驚く。
助けたいって僕を?どうして?
そんな僕の疑問には全く気付かず、何かを決心した表情のリーゼ。
「リアス様。私と一緒に帰りましょう」
「は?」
「私と帰るのです」
いや、帰るって言葉の意味は分かるよ。
でも、どうやって?
この状況で逃げられる自信がある意味が分からない。
もしかしてこの子は魔力封じを知らないのか?
「無理だよ、僕も君も魔力封じを付けられてる。どうやってここから逃げ出すの?」
気が付いてなかったのか僕の視線を追うように足に付けられた魔力封じを見たリーゼ。
なんだかどうでもよさそうな、まるでこんなもの関係ないと言いたそうな顔をする。
「このペンダントに付いている魔石を見てください」
急に胸元のリボンを解いて服の中に手を入れ始めるリーゼに驚いていると中から石の付いたペンダントが出てくる。
確かにあれは魔石だ。でも、どうして彼女がそんなものを持っているのだろう。
「この魔石には私がどこに居るのか家族には分かるようになっている魔法が付与されています。またこちらからも居場所を伝えられます」
意味が分からない。
魔石だけでも結構な額がするというのに本人がどこにいるのか分かるような探索魔法が付与されているだと。しかも自分の居場所を伝えられる伝達魔法も。
そんな高等技術を出来る人は僕が知る限り、父様か優秀な魔法師であるガブリエラ様だけだ。
「そんな高等技術が使われたペンダントをどこで…。そもそも魔石がいくらすると思ってる!」
「父親の伝手で手に入れました」
リーゼはなんて事のないように答える。
もしかして、この子は僕よりも身分が上なのか?でもそんな子がわざわざ誘拐をされてまであいつらの目的を探ろうとするものか?
本当に分からない。でも、気になる。
「本当は私を拐った人達の目的を聞いてから自分で帰ろうとしてたので使うつもりはなかったのですけどね」
この普通に帰れますよって態度は何なのだろう…。
「僕、帰れるの…?でも、その前にあいつらが来たら!」
「この際、私や貴方をここに閉じ込めている人達の事はどうでも良いのです。リアス様、貴方は自分の住む屋敷に帰りたいですか?」
僕の気持ち?
そんなものを彼女は聞きたいのか?
僕は……どうしたい?
どうせ売られる身なのだからとしか考えていなかった。
それなのに今彼女によって僕の選択肢は増えた。
ここに残って売られる未来を選ぶか帰ってあの女をどうにかするか。
リーゼは僕に答えを求めている。
それなら決まっている。僕は…!
「……帰りたい。あの女にめちゃくちゃにされたけど僕と母様の思い出がある大切な家なんだ」
帰って取り返したい。
奪われた物をこの手で取り返したいのだ。
「なら、帰りましょう。帰ってその最悪な女性を捕まえましょう」
笑ってそう言ってくれた。
僕に家に帰る選択肢を与えてくれただけじゃなくあの女を捕まえる事にも希望を与えてくれようとしている。
ダメなのに、そんなこと分かってるのに…。
彼女に惹かれてしまう気持ちが止められない。
「ねぇ、リーゼ…。もしも無事に帰れたら…」
僕と婚約してほしい。
最後までは言えなかった。急に開かれた扉から現れた男の子。
真っ直ぐリーゼを見つめていた。
「リーゼ!無事か!助けに来たぞ!」
本当に助けが来たの?
それより彼はリーゼにとってどういう存在なのだろうか…。
よく分からない状況の中で一つだけ言えることがある。
「何をしてるのですか、ベルン様…」
リーゼの瞳はもう僕を映してなかったことだ。
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