幕間3※ユリアーナ視点
話をする為に個室に移動するとベルンハルトに人身売買の件と例の現場であった事を話した。
「つまりリーゼはわざと拐われたって事?」
「そうなりますね」
素直に返事をするとベルンハルトは顰めっ面を浮かべた。
「どうして彼女が拐われる必要があるんだ」
「私の予想ではありますが聞きますか?」
フィーネの返しにベルンハルトは「頼む」と頷いた。
「おそらくリーゼ様は誘拐犯の目的と拠点となっている場所の特定を自分でしたかったのです」
「そんな事、僕に頼めば…」
「リーゼ様はお優しい方です。これ以上の犠牲者を出したくないだけかと」
流石はトルデリーゼの専属侍女。彼女の事をよく分かっているらしい。
それに引き換えベルンハルトは理解が追いついていないようだ。
「それはどういう意味だ?」
「第三者に依頼すれば真相を掴むまでに時間がかかります。それに相手は人攫いに慣れた集団ですので尻尾を掴むのも大変だと思ったのでしょう。リーゼ様は調査が終わる前に新しい犠牲者が増えてしまう事を危惧したのですよ」
淡々と話すフィーネにベルンハルトは深く溜め息を吐いた。
普通の貴族令嬢であれば絶対にあり得ない行動だけど相手はトルデリーゼだ。納得出来てしまうのだろう。
「ユリアーナ嬢も同じ意見だと思う?」
「はい、同じです。本来なら私がリーゼ様の代わりに拐われるべきだったのですが…」
生憎とその役割は奪われてしまった。
「何言ってるんだ!」
私の言葉を遮り怒鳴りつけてきたのはディルクだった。彼を見ると怒りに満ちた表情をこちらに向けており失言だったと慌てて口を塞いだ。
「ディルクが怒るのも無理ないよ。ユリアーナ嬢が拐われなくて良かった」
「失言でした。申し訳ありません」
未だにディルクから感じるのは怒りだ。
トルデリーゼの件が終わったら謝った方がいいだろう。深まった溝が埋められるかは分からないけど彼との話し合いは必要だ。
「フィーネ、リーゼは本当に無事なんだね?」
「リーゼ様は自分の安全をちゃんと考えられる人間ですよ。それに公爵家の影がいますので」
「こっちが心配しているのに…。ちゃっかりした性格だよね」
「嫌だと思うなら解放してください」
「いや、そういうところが好きだから離さないよ」
さらりとこういう事が言えてもトルデリーゼには伝わらないのよね。
悪役だから好かれるはずがないと思っているのかしら。
「場所が分かっているのなら、すぐに迎えに行こう」
「それはいけません」
「何故だ?」
やっぱり睨まれるわよね。
普通なら誘拐された場所が分かった時点で助けに行くのが正しい。
ベルンハルトは間違っていないのだけどトルデリーゼが望んでいないのよ。
「我慢してください。リーゼ様からは夕方まで待機してるように言われてるのです。破れば私が怒られます」
「僕に話した時点で怒られるのでは?」
「リーゼ様の事です。話しておいて欲しいと伝え忘れただけですよ」
いや、それは違うと思うけど。
トルデリーゼは人を頼る事をあまり好まない人間だ。
他人に迷惑が掛かるのを嫌い、自分で解決しようとするきらいがある。
おそらく前世の癖なのでしょうけど、どうにかしてあげたいところだ。
「影の報告によるとリーゼは同い年の女の子と話しているみたいですよ」
部屋に入って来たアードリアンが説明する。
女の子?
他の被害者かしら。全く酷い事をするわ。
「女の子?」
「顔は女の子なのですが服装は男の子っぽいみたいです」
え?それって男子じゃないの?
同じ事を思ったのかベルンハルトは渋い表情で「ねぇ、女の子じゃなくて男だよね?」と尋ねた。
「影の報告だけですがおそらくは…」
ぷるぷると震えるアードリアンと怒りに表情を歪めるベルンハルト。
どちらもトルデリーゼを断罪する人間とは思えない。彼女は破滅回避をするのが面倒だと言っていたけどやっぱり既に出来ていると思う。
「やっぱりすぐに助けに行こう」
「僕もそうした方が良いと思います」
二人揃って出て行こうとするベルンハルトとアードリアンを止める為に無駄な攻防戦が繰り広げられる事となったのだ。
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