幕間2※ユリアーナ視点

武器屋に入ると攻略対象者三人が目に入った。ゲームだと凄い仲良しというわけではなかった三人が仲良く武器を選んでいるというのは不思議な話だ。

ゲームの筆頭悪役令嬢トルデリーゼが無自覚タラシのせいだろうか。

それは置いておくとして三人に誘拐の事を知らせなければならない。


「ユリア?どうしたんだ?」


私とフィーネの存在に気が付いて駆け寄って来たのは兄ディルクだった。


「実はリーゼ様が誘拐されました」


大きな音を立てて武器を転がしたのはベルンハルトだった。表情を凍りつかせた彼はゆっくりとこちらに近づいて来て私の肩を鷲掴みにする。


「リーゼが誘拐されたというのは本当の事なのか!」


一瞬で怒りを向けてくるベルンハルトに黙って頷くと「どういう事だ!」と怒鳴り散らされる。

ゲームでは常に冷静沈着キャラだった彼が取り乱すとは随分とトルデリーゼに入れ込んでいるものだ。


「お、おい!ベルン、乱暴するな!」


私を揺さぶるベルンハルトを止めたのはディルクだった。


「そうです、落ち着いてください」

「大切な婚約者が拐われたと聞いて落ち着いていられるか!今すぐ犯人を捕まえて血祭りに上げてやる!」


子供の言う台詞じゃないわよ、それ。

それにしても理性を失っているのは厄介ね。


「ベルンハルト様、落ち着いて私の話を聞いてください。リーゼ様は無事ですから」

「何故そう言い切れる!退け!今すぐリーゼを探しに行く!」


ベルンハルトってこんなキャラだったっけ。

攻略している時と全然別人じゃない。


「良いから落ち着いてください!」


真っ直ぐ睨み付けるように言う。

中身が大人なせいか無駄に威圧感が出ていたのだろうベルンハルトはあっさりと口を閉ざした。


「ベルン、ここで目立つのは良くないです。とりあえず現場に向かいましょう」


提案してくれたのはアードリアンだった。

ベルンハルトは舌打ちをしながらもゆっくりと頷く。

武器屋からカフェに移動すると店内を貸切にして現場に向かった。


「……ここで攫われたのか」

「リーゼ様が拐われたのは私のせいです。申し訳ございません」


彼女が逃げるように言ったが素直に従うべきではなかったかもしれない。

やっぱり私が拐われるべきだったのだろう。


「いや、ユリアーナ嬢のせいじゃない」

「しかし…」

「それよりも何か情報は…」

「ベルン、報告です」


駆け寄って来たのは外でフィーネと話していたアードリアンだった。


「なんだ?」

「今回雇われていない護衛の姿をフィーネが確認しました」

「本当か?」


アードリアンの後ろに待機していたフィーネを見ると小さく頷いた。

おそらく彼にはトルデリーゼの考えを話したのだろう。そうでなければ妹命の彼が落ち着いていられるわけがない。


「はい。今回の護衛が着ていた服によく似た服を着た男を喫茶店の外で確認しました。人数は四人です。いずれも護衛に配られていたブレスレットを付けていませんでした」

「リーゼを拐った奴らの仲間か?」


首を縦に振って「おそらくは」と答えるフィーネ。


「ベルン、その男達の取り調べが終わるまでは待機しましょう。ユリアーナ嬢からも話を聞きたいですし」


こちらを睨み付けてくるアードリアンから伝わってくるのはお前も知っている事を話せという雰囲気だ。

こいつ、トルデリーゼの友人であるから友好的に接しているだけで私の事好きじゃないでしょ。


「あぁ、そうだな…」


力なく頷いたベルンハルトに早く話さないという罪悪感を覚えた。

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