幕間1※ユリアーナ視点
トルデリーゼに逃がしてもらった後バタバタと走り去っていく男達が居た。隠すように持っていたのは子供が入っていそうな布袋。
「あの馬鹿。わざと誘拐されたわね…」
すぐに追いかけようと思ったが私一人では追いつく事は出来ない。それに彼女からの頼まれ事であるフィーネへの伝言を渡せていなかった。
「すぐに助けに行くから待ってなさい」
男達が駆けて行く方向と真逆に向かって走り出した。
「フィーネ!」
「ユリアーナ様?どうかされましたか?」
「リーゼ様が誘拐されたわ…。多分わざとね」
私の言葉にフィーネは渋い顔になった。
真っ直ぐこちらを見つめてくる彼女は「リーゼ様は何か仰っていましたか?」と尋ねてくる。
「予定通り、と伝言を貰ったわ」
「はぁ…。困った主人です」
苦笑いを浮かべるフィーネ。心配はしていないようだった。
彼女は主人が拐われたと聞いて落ち着いていられるような子ではない。ここまで落ち着いていられるという事はわざと誘拐される事を教えて貰っていたのだろう。
「ユリアーナ様、リーゼ様は大丈夫です」
「すぐに助け出しに行かないの?」
「それを望んでいないのはリーゼ様自身ですので」
「どういう事?」
フィーネから聞かされたのは「わざと誘拐されるので夕方まで助けを来させないように。私は影を連れて行きます」というトルデリーゼの頼み。
どうやら人身売買を行っている人達の情報収集を自らしようとしているらしい。
前世が日本人とは思えない発想だ。
「リーゼ様には公爵家の影がついております。怪我をする事はまずないでしょう」
「そうは言っても…」
「それよりユリアーナ様、ご協力いただきたい事があります」
「協力?」
「えぇ」
フィーネは深刻な表情を浮かべた。
彼女の視線の先にあったのはディルク達が入って行った武器屋。自分で言うのもどうかと思うが私は察しの悪い人間ではない。
フィーネの言わんとしている事が一瞬で理解出来てしまった。
「ベルンハルト…殿下達への説得ね」
「その通りでございます」
トルデリーゼは自覚をしていないようだけどベルンハルトは相当彼女に入れ込んでいる。
誘拐されたと聞いたらすぐにでも大規模な捜索隊を組む可能性が高い。
それはトルデリーゼの作戦を壊す事になるだろう。
さて、どうやって彼を引き止めようか。
「ベルンハルト殿下に全てを話したら?」
「しかし…あの、面倒な殿下が大人しく待っていると思いますか?」
「話さない方が面倒な事になりそうだわ」
「確かに…」
ベルンハルトは馬鹿な人間ではない。
全てを話した上で納得して貰う方が正しい選択だ。
「とりあえずお兄様達のところに向かいましょう」
私の言葉にフィーネは大きく頷いた。
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