第28話

王城って大きいです。

前世の頃、日本のお城を見に行った事があるけど比べるのも失礼なくらい大きい。

建てるのにどのくらいの時間がかかったのだろうか。そして費用はどのくらいかのだろうかと考えてしまう。


「リーゼ、どうした?」


今日は父と一緒に王城に来ています。

結局というか当たり前の事だけど逃げられなかった。嫌過ぎて一週間が過ぎるの早く感じた気がする。

陛下や王妃様への挨拶は気分が落ちてしまうが大きいお城の中に入れるのは結構わくわくするものだ。これだけ広いと。


「探検したい………あ、すみません」


城の壁画を眺めながら本音を溢してしまう。

父から驚いた顔を向けられた。

昔のトルデリーゼなら言わない事なので当たり前だ。


「あ、あの…」

「ははっ、私も初めて来た時は同じ事を思ったよ。時間があったら案内してあげよう」


愉快な笑顔で頭を撫でられる。

それにしても父でも探検したいと思ったのか。魅力的なお城だから仕方ない。

案内してもらえるのは地味に嬉しい。


「案内してもらえるの楽しみです!」

「リーゼはかわいいなぁ」


また頭を撫でられそうになったが今度は出迎えの人が来てくれたので逃げる事が出来た。

前にベルンハルトと一緒に屋敷に来ていた執事クラウスだ。


「ようこそ、おいで下さいました」

「案内はクラウスか。よろしく頼むぞ」

「はい、こちらへ」


そう言ってクラウスは前を歩き始めた。

私はきょろきょろと辺りを見回しては父に「落ち着きなさい」と怒られてしまう。

気になるのだ。早くお城の中を見て回りたい。


「リーゼが何を考えているのか想像出来るが、とりあえず陛下たちに会うのが先だぞ」

「うぅ、はい…」


忘れていたわけじゃない。ただ考えるだけで胃が痛くなるので直前まで考えないようにしていたのだ。

クラウスは微笑ましそうに私たちを見つめてくる。

恥ずかしいです。

ヴァッサァ公爵令嬢として、ベルンハルトの婚約者として、しっかりしようとしていたのに落ち着きが足りなさ過ぎた。

王城の魅力は恐ろしいものだ。


「トルデリーゼ様はお可愛らしい方ですね」

「自慢の娘だよ」

「お父様、恥ずかしいのでやめてください」


ここでの父はしっかり者の宰相さん。

私が一緒にいる事で株が落ちたら最悪だ。

お互いにしっかりしなければいけない。


「同僚にはよくリーゼの可愛さを語っているのに…」


あ、もう無理かもしれない。

親馬鹿全開のトークを繰り広げているのだろう。そして幻滅させているのだ。

ごめんなさい、顔も名前も知らない同僚さん達。


「到着致しました」


案内を受けたのは王城の奥深くにある部屋。

頑丈そうな部屋は絶対に普通の談話室じゃないと思う。おそらく人に聞かせられない話をする場所だ。


「リーゼ、しっかりなさい」

「はい、お父様」


立派な挨拶をして差し上げますからね。

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