第27話

「お父様、もう一度お願いできますか…?」


夕食の後、父から呼び出された。

向かった彼の執務室で言われたのは。


「陛下と王妃様がリーゼに会いたいそうだ…」


どうやら聞き間違いじゃなかったらしい。

はい、逃げ出したいです。今すぐ寝たいですね。

そして全てを忘れたい。


「リーゼ、今寝たいと思ったな?」

「お父様も段々と私の気持ちを理解出来るようになってきましたね。凄いです」

「褒められている気がしないぞ…」


父は力なく首を横に振った。

個人的には親子の絆が深まってる感じがして嬉しい限りだ。


「リーゼ、寝るのは良いけど話が終わってからにしなさい」

「はい」


どうやら逃してもらえないみたいだ。

それにしても陛下と王妃様に会う事になるとは思わなかった。

いずれは挨拶をしないといけないと分かっていたけど急すぎてついていけない。

よく考えてみたら急ではないか。むしろ遅いくらいだ。

ベルンハルトと婚約して二ヶ月も経っているのに挨拶に行ってない方がおかしい。

よく今まで叱られなかったものだ。


「一週間後に一緒に王城に向かうぞ。緊張しなくて大丈夫だ、談話室で会うだけだからな」


余計に緊張しますよ。

どうして王族と談話室という名の個室で話さないといけないのだろうか。

もっと開けた場所で話したい。目立つから無理だと分かっていますけどね。

ただの期待だ。それくらい考えたって良いじゃないか。

あぁ、頭が痛くなってきました。


「大丈夫。ちょっと話して帰るだけだから」

「そうですか…」

「そうだ!帰りに好きなお菓子を買ってあげるぞ!」


お菓子で釣るって私は子供ですか。あっ、子供でしたね。

死ぬには若い年齢だった気がするけど中身はおばさんだ。

たまに体に年齢を引っ張られる事もありますけどね。


「チョコレートが食べたいです」

「わ、分かった。たくさん買ってあげよう」

「流石にたくさんは要りません。けど、ありがとうございます」


父は私の態度にどうしたらいいのか迷っている様子。

別に困らせたいわけじゃなかったのだけど。


「大丈夫ですよ、お父様。しっかりと挨拶はします。仮にも義父母になる方々ですから」


今のところは義父母となる存在だ。

そのうち変わってしまうだろうけど。


「お父様の娘として恥ずかしくないように振る舞いたいと思っております」


ヴァッサァ公爵令嬢として、王太子ベルンハルトの婚約者として立派に挨拶しようと思う。

かなり疲れるでしょうけど帰りのチョコレートの為だと思えばやり切れる。


「リーゼなら礼儀作法も完璧だ。何も心配していないぞ」


私の言葉に満足したのか父は嬉しそうに笑った。


「チョコレートの件は絶対に忘れないでくださいね」

「分かっている」


苦笑いを向けられるがご褒美の為じゃないと人間頑張れないものなのです。

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