第22話

ベルンハルトと一緒にディルク達の家に行く事を家族に話したら苦い顔をされてしまった。

どうやらあまり外に行って欲しくないらしい。

ただユリアーナと友達になりたいと言ったら笑顔で許可してくれた。外出の判断基準どうなっているのですか?って聞きたくなる。

そうこうしているうちにフランメ伯爵家に行く日になった。

攻略対象者と悪役令嬢に会うのは怖いけど楽しみだったのであっという間だった。


「リーゼ様、婚約者様がお見えになったそうですよ」

「ありがとう、フィーネ。ね、今日の格好変じゃない?」


今日は空色のワンピースを着ている。

お茶会だったらドレスを着なくてはいけないけど、今日は遊びに行く事が目的なので軽い格好で良いのだ。


「似合ってますよ。婚約者様の贈り物じゃなければさらに良かったのに…」

「そういう事を言わないの」


ワンピースを贈ってくれたのはベルンハルトだ。おそらく自分の婚約者として恥ずかしくない格好をさせたかったのだろう。

子供ながらに考える事が恐ろしい。

フィーネを連れて玄関まで行くと母とベルンハルトが話していた。


「おはようございます、リーゼ。よく似合っていますよ」


相変わらず蕩けるような王子様スマイルだ。

本当にどうしてゲーム画面越しで見れないのだろうか。


「おはようございます、ベルン様。お待たせしてしまい申し訳ありません。それからワンピースを贈ってくださりありがとうございます」

「自分の贈った物を着てもらえるなんて幸せですね」


はいはい、お世辞もありがとうございます。

心の中で呟く。


「では、そろそろ行きましょうか」


そう言って手を差し出されるので自分の手を重ねる。こうやってエスコートされるのもいい加減慣れてきた。


「リーゼ、気をつけるのよ。いくら騎士団長のお屋敷といっても油断はしない事」

「はい、お母様」


見送りは母がしてくれる。父とアードリアンは既に出かけているからだ。


「大丈夫です、奥様。誰がお嬢様を狙っても私が退治しますので」

「フィーネ。私を見ながら言うのはやめてください」

「たまたま視界に入っただけです」


ギスギスするベルンハルトとフィーネを見ながら溜め息を吐く。

やっぱり三人で出かけるのは不安だ。

せめてアードリアンが来てくれたら良かったのに今日はどうしても外せない用事があるらしい。


「では、行ってきます」


ガタガタと揺れる馬車の中は静かです。

フィーネは中に入らない予定だったが世間の目を気にして私とベルンハルトを二人きりにするわけにはいかなかったそうだ。

屋敷の敷地内なら良いけど外だと何を言われるか分からないから仕方ない。

ただベルンハルトは終始つまらなさそうな顔をしていた。


「もうすぐ着くよ」


そう言われて小窓から外を覗けば大きな屋敷が見えてくる。

なんか変な建物があるんだけど…。

既視感があると思ったら前世で見たコロッセオのようなものがある。あれって確か…。


「闘技場?」

「よく分かったね。フランメ伯爵家は騎士の家系だ。年に数回あそこで騎士団員の中で誰が最強騎士か決める戦いが行われるそうだよ」

「すごい大騒ぎになりそうですね」

「実際大騒ぎだよ」


それは楽しそうだ。

ネット中継とかあれば絶対観るのに。この世界には中継はない。残念な話だ。

ただビデオこと映像記録器は存在している。


「いつか一緒に観に行こうか」


笑って提案するベルンハルト。

いつか、と言ってくれるあたり優しさを感じる。私があまり屋敷から出して貰えない事を知っているからこその気遣いなのだろう。

個人的に観たいし、ベルンハルトと一緒なら王族の護衛も一緒という事。厳重な警備が敷かれているのなら父達も観に行く事を許可してくれるだろう。


「はい、一緒に行きましょう」

「……その笑顔はずるいな」

「え?」

「リーゼ様、着いたみたいですよ」


一瞬照れた様子を見せたベルンハルトだったが今はちょっと怒った顔になってる。

一体何があったのだろうか?


「本当に良いところで邪魔をする…」


ベルンハルトの拗ねた声が響いた。

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