第23話
ベルンハルトの手を取って、馬車から降りると既に出迎えの準備は済まされていた。
大勢の使用人の間から出てきた人物は赤髪の美少年。正しく攻略対象者だ。
「よー、ベルン。久しぶ…」
「ディルク、リーゼの前だ。態度を改めろ」
「おっと、失礼しました」
別に素の態度でも大丈夫だけどね。
ゲームのディルクは好感度が上がらなくてもタメ口だったのでそっちの方が慣れている。
流石に言えないけどね。
「初めまして、フランメ伯爵子息様。私はトルデリーゼ・フォン・ヴァッサァと申します。以後お見知り置きを」
王太子の婚約者として恥ずかしくない淑女の礼をする。
カーテシーは実際にやってみると結構難しい。ただスカートを持ち上げて膝を折るってだけじゃない。片足を斜め後ろの内側に引いて、もう片方の足の膝を軽く曲げて、背筋は伸ばしたまま挨拶をしなければならない。
優雅に見えるようにする為にはかなりの訓練が必要なのだ。
「私の名はディルク・フォン・フランメでございます。お会いできて光栄です、姫君」
意外と様になっている。
ガサツに見える熱血キャラがちゃんとすると何割か増しに良く見えるものだ。
ギャップ萌えを感じる。
私の手の甲にキスをしようとしたディルクを止めたのはベルンハルトだった。
「ディルク、悪戯がすぎるぞ」
「ははっ、悪かったよ。姫様、そちらの方は?」
「私の事はリーゼで構いません。こちらは私の侍女をしてくれているフィーネです」
「フィーネ・デューネと申します」
「よろしくな、フィーネ」
ディルクは攻略対象者の中でも群を抜いて気さくなキャラだ。主人公にもこんな風に接していた事を思い出した。
「リーゼ様もフィーネも俺の事はディルクでいいですよ」
「ディルク様も口調を崩して大丈夫ですわ。無理してるの丸分かりなので見ていて恥ずかしいです」
「手厳しいな、リーゼ様は」
「ごめんなさい、つい」
「いや、助かったよ」
じゃあ、行こうか。と先頭を歩くディルクを後ろをついて行く。
彼の元気キャラのおかげでさっきまでの重苦しい馬車と違って気が楽だ。
ゲームより素敵に見えてくる。
七年後、妹に制裁を加えないと良いけど。
そういえばユリアーナの姿が見当たらない。ゲームだと幼少期からべったりだと言っていたのに。
「ディルク様」
「なんだ?」
「妹さんはいらっしゃらないの?」
「ユリアはガゼボで紅茶を準備して待ってるよ」
ユリアーナ本人が?どうして?
確かゲームでは兄にてガサツ……いえ、ちょっと男勝りな令嬢だったのに。
「幼少期だからかしら…」
「リーゼ様?何か気になる事でもありましたか?」
「いえ、大丈夫よ」
フィーネが心配そうな表情を向けてくれるので笑顔で返します。
「妹さんはどんな方ですか?」
「ユリアの事が気になるのか?」
「私、お友達が少なくて…。お友達になれるならなりたいのです」
「なるほど……な」
友達が少ないと言った瞬間、可哀想な物を見るような目で見られた気がする。
私だってそう思いますよ!
それにしてもディルクの反応がおかしいような。
「ディルク、話してやれ」
私の心情を察してくれたベルンハルトには感謝しかありませんね。
「ユリアはなんというか…その、だな」
「なにか?」
「あぁ、実は五歳の頃に大怪我をして…。目を覚ましたら別人みたいになってしまって。それまではお転婆な奴だったんだけど…人が変わったように大人しくなっちまった」
「……そう、なんですか」
「でも、明るく優しくて料理が大好きな可愛い奴だ。昔のあいつも今もあいつも俺にとっては変わらず大切な妹だよ」
あいつには内緒な、と照れ臭そうに笑ったディルクはいい兄をしているらしい。
それにしても大怪我して別人みたいになったって…。
まさか私と同じ前世持ち?
まだ分からないがユリアーナに会いたい気持ちが強まった。
「ユリアーナ様と仲良くできたらいいなと思っています」
「俺もあいつに女の子の友達が出来たら嬉しいぞ」
お転婆じゃないユリアーナは想像出来ないけど友達になれたら嬉しい。
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