第20話

フィーネの変わりっぷりに驚いているとエマが耳打ちしてくれます。


「あの子、侍女服に着替えると人が変わったようにしっかり者になるのですよ」


貴女はアニメの登場キャラですか。

変わりすぎですよ。ギャップ萌えだったとしても限度を考えてください。


「フィーネ、私が案内したいのですよ?」

「それはいけません。リーゼ様はゆっくりしていてください」


折れてくれる気配がないフィーネに苦笑いになる。

久しぶりに屋敷を歩いて回りたかったのに。

助けを求めようとエマを見ると素敵な笑顔で返されてしまう。

これは助けてくれないパターンだろう。

エマは初めからこうなる事が分かっていたのでしょうね。


「少しの間、リーゼ様のお側を離れることをお許しください」

「え、えぇ…」

「では、フィーネの案内はクルトに任せましょう」


クルトはエマの夫で、この屋敷で執事長をしている人。

つまりはフィーネの祖父にあたる人物だ。


「クルト執事長は今どちらに?」

「私が呼んできますのでこちらで待機していなさい」

「畏まりました」


出て行ったエマの代わりにフィーネが紅茶のおかわりを淹れてくれる。

ピシッとしていますね。

むず痒い。さっきまでの落ち着きのないフィーネはどこに行ってしまったのだろうか。

侍女服を着ている間はこの状態って事は私の側にいる時はずっとこの状態なんですか…。


「何かお困り事ですか?」


フィーネをじっと見つめていると首を傾げられる。


「ねぇ、フィーネ」

「はい」

「私と二人きりでいる時は素の状態で良いのよ?」


むしろ素の状態でいて欲しい。

その気持ちを込めて言ってみるがフィーネは首を横に振る。


「なりません」


分かっていたけど折れてくれなかった。


「二人きりの際、私が失敗してもリーゼ様はお許しになってくださると思います。ですが、それはあってはならない事なのです。他の方から見れば私の失敗は主人であるリーゼ様の責任となります。リーゼ様が責められるような事になるのは堪えられません」


失礼な事を言ってしまい申し訳ありませんと謝られてしまう。フィーネの言い分は正しいのでここは頷くしかない。

十二歳の子が覚悟を決めて仕えてくれているのです。私も主人としてしっかりしないといけませんね。


「フィーネ」

「はい」

「今の私は主人として未熟者ですが、フィーネの主人として立派になります。ついて来てくれますか?」

「私の忠誠は既にトルデリーゼ・フォン・ヴァッサァ様へ捧げました。この命が尽きるその時まで貴女について行きます」

「えぇ、貴女の忠誠を受けとりました」


たまにはあっちのフィーネも見てみたいのですけどね。

彼女が私服の時にこっそり会いに行きましょう。

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