幕間4※ベルンハルト視点
「嫌です」
一瞬驚くが絶対に自分の意思を曲げないところが面白くて笑ってしまう。
「そんなに嫌なの?」
「王太子の婚約者って疲れるじゃない。疲れることはしたくないのよ」
「それを僕に直接言えるあたり勇気あるね」
息を吐くように酷い事を言ってくるトルデリーゼ。全く媚を売らない姿勢に興味が引かれる。
「僕の婚約者になって他の令嬢から睨まれたくないとか?」
「公爵家の生まれの時点で妬みの対象だったので今更気にしません」
ヴァッサァ公爵家は名家だ。その生まれの時点で妬みの対象になるのは必至。いつかは受け入れないといけない事だけど、八歳で受け入れられるものなのだろうか。
よく分からないけど彼女の事はゆっくり知っていけば良いだろう。
それよりも僕の婚約者になりたがらない理由だ。
「もしかして王太子妃教育が嫌なの?」
「普段から厳しい教育を受けているので特に問題ありません」
問題ないのか。
厳しい淑女教育を余裕で受けていると公爵とアードリアンが自慢していたような。
優秀だと言っていたのは自分の家族をあげる為じゃなかったのか。
「じゃあ、なんだ…」
全然当たられない。悔しいな。
久しぶりに悔しいという感覚を味わった。
落ち込む僕を見ていられなくなったのかトルデリーゼは答えを与えてくれる、
「睡眠時間を削られるのが嫌なのよ」
「は…?」
睡眠時間が大事?王族である僕との婚約より?
衝撃の事実に目を瞠る。
「王太子妃教育が始まれば朝早くから夜遅くまで勉強することになるのでしょう?そうなると大切な睡眠時間が削られるじゃない。それが嫌なのよ」
予想外過ぎる答え。
睡眠時間は大事だ。しかし王太子妃教育を受けたとしても普通に睡眠は得られると思う。
彼女の優秀さを考えれば教育も毎日ってわけじゃなさそうだ。それを分かっているはずなのに睡眠時間が大事って…。
面白い。
なにより必死になって婚約から逃れようとしている姿が可愛い。
「どうしよう。いいな…」
「王太子殿下?」
いい加減、名前で呼ばれたい。
彼女に呼んで欲しい。
「ベルンって呼んで。堅苦しいのは嫌なんだ」
「……ベルン様」
「呼び捨てで良いのに。まぁ、それは追々かな」
渋々呼ばれただけなのに嬉しい。きっと呼び捨てにされた日には上機嫌で城を歩き回るだろう。
さて、そろそろトルデリーゼに現実を教えてあげようか。
「婚約の件だけどね。最初からリーゼに拒否権はないよ」
「どうしてですか?」
「これは王命による婚約だから」
流石に逃げられないと自覚するだろう。
ふと顔をあげるとぽろぽろと涙を溢すトルデリーゼが視界に映り込む。
え…と漏れかかった声は抑えられたが動揺が酷い。
「泣くほど嫌なのか…?」
「嫌です」
嫌なのか。
僕はトルデリーゼと婚約したいと思っているのに、どうして彼女は受け入れてくれないんだ。
「なんで?」
「ベルン様は他の子を好きになるから…」
突拍子もなさ過ぎる発言に固まった。
彼女には未来を読める力でもあるのか?いや、あるわけがない。
じゃあ、どうしてこんな考えに至ったんだ。
理解出来ない。
「どうして僕が他の人を好きになるんだ…」
「十五歳になって学園に通い始めたら多くの人と会いますよね」
「急に話が飛んだね…」
どうして七年も先の話をするんだ。
理解が出来ない。
「その中に運命だと思える人が現れるかもしれないじゃないですか!」
「ちょっと落ち着いて!」
目の前に用意されていたチョコレートを彼女の口の中に突っ込んだ。
く、唇柔らかい…。ってそうじゃない。
「ちょっとは落ち着いた?」
「はい…」
僕の問いかけにトルデリーゼは首を縦に振った。さっきまでの勢いはどこへ行ったのやら急に小さくなる彼女に頰が緩む。
うん、これはこれで可愛い。
「よく分からないけど、リーゼは僕が他の人を好きになると思っているんだよね?」
「はい」
どういう考え方したらそうなるのか分からないけど、きっかけがあったのだろう。
未来の事は分からないが婚約者以外の子に惹かれる予定はない。
「他の人を好きになる気はないんだけどな」
僕の呟きを聞いてトルデリーゼは顰めっ面を浮かべる。
「リーゼ、どうしたら僕と婚約してくれる?」
情けない声に苦笑する。トルデリーゼは黙り込んでしまった。
「……約束してほしい事が二つあります」
「叶えられそう内容なら叶えるよ」
ようやく口を開いたかと思ったら王子に約束事とは、やっぱり面白い女の子だな。
「一つ目は好きな人が出来たら報告してください」
「……うん、分かった」
好きか…。
そうだ。うん、この気持ちがしっくりくる。
僕はトルデリーゼを好きになり始めているんだ。
「二つ目は大勢の前で婚約破棄するのはやめてください。するなら裏でやってください」
「はぁ?」
どうして僕が婚約者を大勢の前で辱めなければいけないんだ。
「約束してください!」
「はぁ…。分かった、約束しよう。その約束を守れば婚約してくれるんだよね?」
「王命ですし…」
トルデリーゼはいつか逃げ出そうとするかもしれない。でも、僕は彼女を逃す気はない。
君は僕の婚約者だ。
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