幕間3※ベルンハルト視点
急に僕と二人きりにさせられて動揺しているのか落ち着かない様子のヴァッサァ公爵令嬢を眺めながら紅茶を口にする。
「あの、王太子殿下…」
「ベルンでいいですよ」
畏まる彼女にそう返せば嫌な顔を向けられた。
「婚約者でもないのに呼べません」
「婚約者になるのですから是非呼んでください」
にこりと笑ってみせた。
他のご令嬢から好評の作り笑顔。彼女にも受けるだろうと思っていたけど…。
無表情だな。いや、呆れているのか。
「殿下、どうして父達を部屋から…」
「追い出したのか聞きたいのですか?」
「は、はい…」
彼女には僕の笑顔はどうでも良いらしい。
なんだ、この態度は。
僕を好いているのではないのか?
「婚約者になる人と二人で話したいと思うのは当たり前の事だと思います」
本当は本心を引っ張り出したくて二人きりになったのだけど。
それを彼女に言うわけがない。
「ヴァッサァ公爵令嬢、あなたの事をリーゼと呼んでも良いですか?」
どう反応するのか気になって尋ねてみるとやっぱり嫌そうな表情を見せる。
「殿下のお好きになさってください」
「リーゼも私の事はベルンと…」
「結構です」
絶対に呼んでやらないと言わんばかりのトルデリーゼ。
嫌な態度をとられているにも関わらず愛らしく感じるのは何故だろうか。
「可愛いのですね、リーゼは」
「お世辞をありがとうございます」
「本当に思っていますよ」
トルデリーゼは信じられないって表情を見せる。
本心なんだけどな。言い方が悪いのか。
アードリアンにも本心に聞こえませんって言われるし、どうやったら伝わるのだろうか。
「王太子殿下。この度は申し訳ありませんでした」
「急にどうしたのですか?」
いきなり頭を下げられて驚いた。
「父が勝手に私の事を陛下に紹介したせいで婚約話に至ってしまったのです。申し訳ありません」
「勝手に…?」
ちょっと待て、どういう事なんだ。
トルデリーゼが僕と結婚したいと我儘を言った。
そんな風に聞かされていたのに違うというのか?どうなっている。
「はい。ですから、私は王太子殿下との婚約を望んでいるわけではないのです」
トルデリーゼ自身は婚約を望んでいない?
「それに殿下も私との婚約は望んでいないのでしょう?」
「君は私と婚約したくないということですか?」
「失礼だと思いますがその通りでございます」
僕の勘違いだったのか。
ちゃんと確認しておけば良かった。恥ずかしい話だ。
トルデリーゼは我儘でも最悪な女でもなかった。
王太子である僕に好意を抱くどころが毛嫌いしてるとても面白い子だった。
そう、面白いんだ。
「……ふふ、ははっ!」
「殿下?」
今日のトルデリーゼな態度を思い出したら笑えてくる。
婚約が嫌だからって失礼な態度をとれるとか面白過ぎるでしょ。
「いや、待って…。嘘でしょ」
「は?」
「いや、すまない。僕の早とちりだったようだ」
思わず素の状態で話してしまったが構わない。婚約者になる彼女の前では取り繕う必要ないだろう。
「驚かせてすまない、こっちが素なんだ。幻滅した?」
「いえ、別に…」
僕が口調を崩してもリーゼはどうでも良さそうに返事をする。
しかし僕だけが素というのも不公平だな。
婚約者になるのだから対等にいてほしい。
「リーゼも普通に話したら?疲れない?」
「王太子殿下に不遜な態度はとれません」
きっぱり返されてしまう。
軽くいうだけじゃ足りないか。
「さっきまで酷かったと思うけど?」
「貴方と婚約したくなかったのよ!あ…」
思わず本音が出ましたって感じだな。
婚約したくなかったというは頂けないが、素を引っ張り出せたのだから今回は許してあげよう。
「それでいいよ。取り繕うの疲れるでしょ?」
素を引き出せたから普通に話してくれるようになるだろう。そう思ったのにトルデリーゼは首を横に振って拒否をする。
「じゃあ、命令。素で話して」
「なっ…」
命令は使いたくなかったけど素で話してくれないトルデリーゼが悪い。
彼女は納得いかない表情を見せながらも諦めたように声を発した。
「不敬罪で捕まえないでよ…」
「もちろん」
未来の妃を捕まえるわけがないのに。
「それで婚約の話はなかった事にしてくれるの?」
「んー…」
期待に満ちた表情のところ悪いけど、それは無理だ。僕も父上には逆らえないからな。
「僕と婚約しよう、リーゼ」
それは王命関係なく僕自身の言葉だった。
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