幕間2※ベルンハルト視点

僕の名前はベルンハルト・フォン・シュトラールだ。

グリモワール王国の王太子として育てられている。


遅かれ早かれ、いつかこの日が来るとは思っていたけど非常に憂鬱だ。

国王である父上から婚約の話をされたのは一週前。

僕と婚約したがっている公爵令嬢がいると言われた。

名前はトルデリーゼ・フォン・ヴァッサァ。

僕の側近候補でもあるアードリアンの妹だった。

婚約話だけでも憂鬱なのに、我儘で婚約をしようとするような最悪な令嬢が相手とは。

友人の妹であっても嫌に決まってる。

当然抗議したが父上は婚約話に乗り気みたいで「王命の婚約だ」と言ってきた。

つまりは僕に拒否権はない。


「はぁ…」

「どうされました?」

「なんでもないですよ、ヴァッサァ公」


馬車の中、僕に心配そうな表情を向けてくるのはランベルト・フォン・ヴァッサァ公爵。

優秀な宰相として国を支えてくれる人であり、僕と婚約したがっている令嬢の父親だ。

何故か浮かない表情を見せる彼に首を傾げるがすぐに答えが出てくる。

きっと娘の我儘で僕に迷惑をかけてしまっているのが申し訳ないのだろうな。


馬車に揺られる事、一時間。ヴァッサァ公爵家の屋敷に到着を果たす。

憂鬱な気分になりながら屋敷の中を歩いていると案内をしてくれていた公爵がぴたりと足を止めた。

着いてしまったんだな。

今すぐ引き返したい気持ちになるが手遅れだ。

談話室に入ってくる公爵に続こうとすると


「お待たせ、リーゼ…。と、なんでギャビーがいるんだ」

「ちょっとね」


中からは公爵と大人の女性の声が聞こえた。

ギャビーと呼ばれたのはおそらく彼の妹であるガブリエラの事だろう。

何度か会った事があるから知っている。


「さて、殿下こちらへ」

「あぁ…」


公爵に促されて、部屋の中に入ると既に頭を下げて礼をとっている令嬢とガブリエラがいた。


「初めまして、ヴァッサァ公爵令嬢。私はベルンハルト・フォン・シュトラールです。よろしくお願いします」


僕が挨拶をした瞬間、ヴァッサァ公爵令嬢は身体を震わせた。が、どうでも良い事だ。そんな事より早く挨拶を終わらせて帰りたい。


「ヴァッサァ公爵令嬢、顔を上げてください」


いつも通り猫を被り、出来るだけ優しく言ってあげる。ゆっくりと顔を上げるヴァッサァ公爵令嬢。

透明感のあるふわふわ銀髪とつり目がちであるが大きな琥珀の瞳。

愛らしい容姿は僕好み、しかし中身は我儘娘だ。喜んで良いのか複雑な気分になっているとガブリエラから声をかけられる。


「ベルンハルト殿下、お久しぶりでございます」

「お久しぶりです、レーゲン侯爵夫人。付き添いですか?」

「ええ」


ガブリエラから挨拶をされて笑顔で返す。

ヴァッサァ公爵令嬢は彼女を見た後、僕に視線を戻す。熱い眼差しを送られるかと思ったのに琥珀色の瞳は恐怖の色を浮かべていた。

そちらから婚約したいと言ったのにどうして怯えられているのだろう。

公爵に「リーゼ、挨拶を」と言われて仕方なさそうに挨拶を始めた。


「お初にお目にかかります、ベルンハルト王太子殿下。トルデリーゼ・フォン・ヴァッサァと申します。よろしくお願い致します」


嫌そうな表情を浮かべながら完璧な動作で挨拶をするヴァッサァ公爵令嬢。

違和感のある姿にもっと話したいと思ってしまった。


「ヴァッサァ公、お願いがあるのですが」 

「はい?」

「トルデリーゼ嬢と二人で話がしたいのです」


あからさまに動揺する公爵。ガブリエラもヴァッサァ公爵令嬢も驚いている。

僕だって二人で話すつもりはなかったよ。でも、彼女の態度が気になって仕方ないんだ。


「勿論良いですよね?」


命令口調で尋ねれば公爵は苦い表情を浮かべながらも「仰せのままに」と頭を下げて出て行った。ガブリエラも心配そうな表情を見せながらも部屋を出て行く。

ヴァッサァ公爵令嬢に付き添っていた侍女も紅茶だけ用意して部屋を退出してくれた。


ゆっくり話せる状況の出来上がりだった。

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