第15話

ベルンハルトとの婚約話。

ついに折れてしまった。というより王命である婚約を断れるわけがなかったのだ。

ただ婚約を受ける代わりに二つの事を約束してもらった。

一つ目は好きな人が出来たら報告してもらう事

二つ目は衆人環視の中で婚約破棄はしない事。

これらをもらえたってだけで十分に頑張ったと思う。

それにしても破滅フラグ回避が酷く疲れるものですね。二度とやりたくありません。


「じゃあ、早速話を進めてもらおう」

「はい…」


爽やか笑顔のベルンハルトに言われて大人しく返事をする。


「疲れ切った表情だね。これでも食べなよ」


誰のせいで疲れていると思っているのだ。

最初から王命での婚約だと教えてくれていたらここまで疲れる事はなかったのに。

文句を言おうと思ったが目の前にチョコレートを差し出されて食べたくなってしまう。

好物を前にすると人間は無力なのだ。

差し出されたチョコレートを食べようとした瞬間、部屋の扉が開いた。


「リーゼっ!だいじょ……僕のリーゼに近づくな!」


勢いをつけて入ってきたのは服や髪、息が乱れきった兄アードリアンだった。

僕のリーゼって貴方のものになった覚えはありませんよ。


「リーゼ、大丈夫か?ベルンになにかされたのか?」


王命という名のゲーム強制力で婚約をさせられましたね。

ベルンハルトが原因を作ったわけじゃないので睨まないであげて欲しい。

そう思っていると口の中にチョコレートを放り込まれる。

うん、美味しい。疲れた体に甘い物がよく沁みます。


「リアン、帰ってきたんだね。それにしてもノックもしないで入ってくるのは良くないと思うよ」

「ベルン!リーゼに変なことしてませんよね?」


アードリアン、ベルンハルトの言葉を聞いてないですね。

それにしてもいきなり詰め寄るというのはどうなのだろうか。


「お兄様!流石に失礼ですよ!」

「どうやらリーゼは僕の味方みたいだね」


ベルンハルトはとても嬉しそうに笑って私の頰を撫でてくる。

八歳児のやる事じゃないと思うのだけど。

それに味方をしたわけじゃなくアードリアンの非常識さに呆れているだけだ。


「別に味方じゃない…って、あれ?お兄様とベルン様は仲良しなのですか?」

「リアンは僕の側近候補だよ。聞いてない?」

「ベルンの事は話す必要がないと思ったんだ…」


ゲーム開始時点ではアードリアンはベルンハルトの側近だったのでいずれ仲良くなるものだと思っていたけど。

この時点で側近候補として仲良くしていたのね。

私に叱られたのがショックだったのかアードリアンは部屋の隅で蹲り始めた。


「リアン、僕たちの邪魔するなら出て行ってよ」

「いえ、お兄様はいてください」


これ以上ベルンハルトと二人きりでいるのは疲れそうなので嫌だ。


「リーゼ、僕と二人きりになるのは嫌?」

「取り繕うのも面倒だから言うけど嫌よ」

「手強いな。二人きりになれた事を喜んでもらえる日を楽しみしてるよ」


流石は攻略対象者だ。八歳児でも甘い台詞がよく似合う。普通の令嬢だったら大喜びだろう。ただ色々と気を遣わないといけないので私は遠慮したい。


「ベルン、なぜリーゼと仲良くなってるんですか…」 

「婚約者になるのだから仲良くするのは当然だろ?」


どこをどう見たら仲良しに見えるのよ。

それから王命強制力で仕方なく婚約するだけ。仲良くするつもりはない。


「婚約?嘘だろ…?」


アードリアンが縋るようにこちらを見てくる。婚約に関しては否定出来ないのでふいっと目を逸らす。


「僕の可愛い妹が婚約…」

「妹離れしたらどうかな?」

「一生出来る気がしません!大体まだ八年しか一緒に過ごしてないのですよ!」


妹離れは七年後にしますよ。

私を見るたびに舌打ちするようになり、最後は家から追い出すのだ。

それと共に過ごした八年間のうち三年くらいは恨まれて暮らしていました。

それにしても疲れる会話ですね。

深く溜め息を吐くとベルンハルトがこちらを苦笑いで見つめてくる。


「リーゼ、僕がいるのに溜め息を吐くのやめてくれない?」

「無理ね。でも、失礼なのは分かっているから謝るわ。申し訳ありません」

「謝る気ないよね?そういうところも可愛いから許すけど」

「ありがとうございます」


確かにトルデリーゼの顔は可愛い。将来的に見てもかなりの美人になる設定だ。しかし顔が可愛くても私の態度は全く可愛くない。


「イチャイチャするな!」

「してません」


さっきから誤解が酷い。

一回眼科…はないから医者に目を診てもらった方が良いと思う。


「仲良いでしょ。羨ましい?」


仲良くないでしょう。嘘つかないでください。それからチョコレートを食べさせようとするのもやめて欲しい。


「もう要らない?好きなんでしょ?」

「……食べます」


なんで気がついているのだ。

ふと机の皿を見ると乗っていたチョコレートが半分以上なくなっていた。

これだけ食べれば好きなのもバレるわね。

苦笑いしながらチョコレートを受け取った。


「リアン、暇ならヴァッサァ公爵達を呼んできて。婚約の手続きをしないといけないから」

「くそ、僕は認めないからな!」


負け犬みたいな発言をして走り去っていくアードリアン。ファンが見たら泣きそうなくらい情けない姿だった。


「認めないって言われちゃったな」

「私も認めてません」

「納得してくれたでしょ?」

「王命だから仕方なくです」

「今は、ね?」


今後も、です。

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