第13話
おかしい。なんでこんな事になってるのよ。
目の前にはベルンハルトが優雅に紅茶を飲んでいる。これ自体は別に不思議じゃない。
おかしいのは私と彼の二人しか部屋に居ない事だ。
「あの、王太子殿下…」
「ベルンでいいですよ」
「婚約者でもないのに呼べません」
「婚約者になるのですから是非呼んでください」
天使のような笑顔を向けられる。
私から見ると悪魔の微笑みに見えて仕方ないけど普通の貴族令嬢なら真っ赤になって大喜びの笑顔だろう。
「殿下、どうして父達を部屋から…」
「追い出したのか聞きたいのですか?」
「は、はい…」
私が自己紹介を済ませると何を考えたのかベルンハルトは父達に退室を命じたのだ。拒否出来ないのが臣下というもの。
二人は私を置いて出て行きました。
「婚約者になる人と二人で話したいと思うのは当たり前の事だと思います」
私は婚約者になる予定がないので逃げ出したいのだけど。
「ヴァッサァ公爵令嬢、あなたの事をリーゼと呼んでも良いですか?」
「殿下のお好きになさってください」
「リーゼも私の事はベルンと…」
「結構です」
婚約者になるつもりもないし、名前を呼ぶ気もない。
突き放したというのにベルンハルトは楽しそうに笑い出した。
「可愛いのですね、リーゼは」
「お世辞をありがとうございます」
「本当に思っていますよ」
貴族男性はどんな女性であっても褒めないといけないのだから大変だ。
「王太子殿下。この度は申し訳ありませんでした」
「急にどうしたのですか?」
「父が勝手に私の事を陛下に紹介したせいで婚約話に至ってしまったのです。申し訳ありません」
「勝手に…?」
「はい。ですから、私は王太子殿下との婚約を望んでいるわけではないのです」
失礼な態度であると分かっているが婚約したくないので本心を伝える。
「それに殿下も私との婚約は望んでいないのでしょう?」
ベルンハルトの様子からして望んでここにいるわけではないのだろう。
ゲームの彼を知っている私には今の彼が猫をかぶっている事はお見通しなのだ。
本当のベルンハルトを知る事が出来るのはゲームの主人公だけ。私ではないのだ。
お互いに望んでいない婚約話は早々になかった事にしてもらいましょう。
「君は私と婚約したくないということですか?」
「失礼だと思いますがその通りでございます」
「……ふふ、ははっ!」
「殿下?」
どうしよう、ベルンハルトが壊れた。
机を叩いて大笑いする王子に戸惑う。
「いや、待って…。嘘でしょ」
「は?」
「いや、すまない。僕の早とちりだったようだ」
ちょっと待って、なんで口調が崩れてるの。
それは主人公への好感度が高い時にしか出ないはずだ。
「驚かせてすまない、こっちが素なんだ。幻滅した?」
「いえ、別に…」
ゲームをやり込み過ぎたせいで崩れた口調の方が慣れているんです。
その言葉は飲み込んだ。
それにしてもどうして悪役令嬢に本性を出しているのでしょうか。
「リーゼも普通に話したら?疲れない?」
「王太子殿下に不遜な態度はとれません」
「さっきまで酷かったと思うけど?」
「貴方と婚約したくなかったのよ!あ…」
「それでいいよ。取り繕うの疲れるでしょ?」
いくら本人の許可があるからって王子相手に失礼な真似は出来ない。首を横に振るとベルンハルトは真っ黒な笑顔を見せた。
「じゃあ、命令。素で話して」
「なっ…」
八歳児とは思えない横暴っぷりだ。逆に八歳だからこんな酷い命令を出せるのだろうか。
とにかく命令とあっては従うしかない。
「不敬罪で捕まえないでよ…」
「もちろん」
「それで婚約の話はなかった事にしてくれるの?」
「んー…」
なぜ悩むのですか。望んだ婚約じゃなかったのでしょう。
さっさとなしにすると言ってください。
「僕と婚約しよう、リーゼ」
頭が痛くなりそうだ。
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