第12話

もうすぐベルンハルトが屋敷に到着するそうだ。

憂鬱だし、疲れから寝たいし、布団と仲良くしていたい。

そんな事を考えていると背中を撫でられた。


「リーゼ、元気出して」


隣を見るとガブリエラ様が笑いかけてきた。

もう家庭教師の時間も終わったのにどうして帰らないのだろうか?と疑問に思う。


「お帰りにならないのですか?」

「……いや、見張っておいた方が……」


聞こえてますよ。

おそらく私がベルンハルトに変な事をしないか心配しているのだろう。


「なにもしませんよ」

「それを信用出来たらどんなに良いか…」


失礼ですね。

授業中ずっとベルンハルトに嫌われる方法を考えていて集中出来ていなかったので仕方ないですけど。


「リーゼお嬢様、殿下がもうすぐご到着されます」

「はぁ…分かりました。ありがとうございます、エマ」

「深い溜め息つかないでよ!」


本当に嫌なので溜め息くらいは許容して欲しい。

じろっとガブリエラ様を見上げれば引き攣った笑顔を見せられます。


「とりあえず殿下の前で魔力暴走させちゃダメよ?」

「大丈夫ですよ。殿下の前で感情が昂ることはないですから」

「そ、そう…」


嫌すぎて魔力が漏れるかもしれないですけど。

それはそれで魔力制御も碌にできない女認定されて逃げられるかもしれない。


「良くないことを考えているわね」

「気のせいです」


エマとガブリエラ様と一緒に談話室に向かっていると屋敷の玄関が騒がしくなる。

おそらくベルンハルトが到着したのだろう。


「叔母様は殿下をお出迎えされないのですか?」


今は家庭教師ではないのでガブリエラ様の事は叔母様と呼んでいる。

混同は良くないですからね。


「私は良いわ」

「……殿下に会いたくないです」

「もう腹を括りなさい」


嫌ったら嫌ですよ。

深く溜め息を吐くと談話室の扉が開いた。


「お待たせ、リーゼ…。と、なんでギャビーがいるんだ」

「ちょっとね」


私が悪い事を考えているとは言えないのか苦笑いで誤魔化すガブリエラ様。父は首を傾げながらも「そうか」と頷いた。


「ベルンハルト殿下こちらへ」

「あぁ…」


部屋の外からやる気のない声が聞こえてくる。やる気がないのは私も同じだ。

面倒だと思いながら立ち上がり深く頭を下げる。


「初めまして、ヴァッサァ公爵令嬢。私はベルンハルト・フォン・シュトラールです。よろしくお願いします」


丁寧に挨拶をしてくれるベルンハルト。

本当に来ちゃったのですね。


「ヴァッサァ公爵令嬢、顔を上げてください」


上げたくないと思いながら頭を上げると視界に映ったのは柔らかそうな金髪と宝石のような青い瞳を持つ素敵な王子様。

攻略対象者だけあって幼い頃から美形だ。


「ベルンハルト殿下、お久しぶりでございます」

「お久しぶりです、レーゲン侯爵夫人。付き添いですか?」

「ええ」


先に挨拶をしたのはガブリエラ様だった。

視線を彼女からベルンハルトに戻すと目が合ってしまう。

蛇に睨まれるカエルになった気分だ。

この人に婚約破棄されるのよね。憂鬱だわ。

父から「リーゼ、自己紹介を」と言われるので仕方なく自己紹介をする事に。


「お初にお目にかかります、ベルンハルト王太子殿下。トルデリーゼ・フォン・ヴァッサァと申します。よろしくお願い致します」

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