第11話

「無理ね」


即答されてしまう。

ちょっとくらい考えてくれても良いじゃないですか。

ガブリエラ様は申し訳なさそうな表情で私は頭を撫でてくる。


「力になってあげたいけど、多分無理よ」

「何故ですか?」

「王家が魔法を大切にしているのは知っているでしょ?」


それについてはもう既に習ったので知っている。頷くとガブリエラ様は話を続ける。


「魔力が、魔法素質が良ければ良いほど王家は欲しがるのよ」

「そうみたいですね」

「リーゼは三種類の魔法を使えるわ。魔力も高い。王家が逃してくれるわけがないわ」


じゃあ、どうしてゲーム内でベルンハルトとトルデリーゼの婚約破棄は成立したのかしら?


「あっ…」


私よりも稀有な存在が居たのだ。

主人公の女の子。

彼女が持っている魔力素質は光。

光魔法はとても珍しく保有している人数は百人に満たないらしい。だからこそ王家は簡単にトルデリーゼを見放したのだ。


「光魔法を使える人がいたら私は必要ないですよね?」

「確かに光魔法は珍しいけど…。唯一の存在じゃないから微妙なところね」


つまり主人公がベルンハルトの前に現れないと分からないという事だ。

それ七年後の話なのだけど…。

私が逃げ出したいのは数時間後の話だ。


「もう諦めなさいよ」

「嫌です」

「そんなにベルンハルト殿下が嫌なの?真面目で良い子だと思うけど…」

「嫌です」


既視感を感じる会話だ。

ベルンハルトは攻略対象者としては素敵に見えるけど悪役令嬢目線から見ると自分を破滅に導く存在だ。

嫌に決まっている。


「ベルンハルト殿下の婚約者になると他のご令嬢に妬まれますし、苛められます。暗殺、誘拐などの危険も多くなります。厳しい王太子妃教育も嫌ですし、私の大切な睡眠時間が削られます」


貴族令嬢達の苛めは子供のやる事だ。

適当に対応出来るし、誘拐も慣れているので別に問題ない。

既に厳しい教育を受けているので王太子妃教育も耐えられるだろう。

ただ睡眠時間が削られるのだけは絶対に嫌だ。こればかりは譲れない。


「リーゼ…。王太子妃はなりたくてなれるものじゃなのよ」

「私はなりたくないです」


なりたい人の中からなれる人を探せばいい話だと思います。


「と、とりあえず逃げられないと思っておいた方がいいわ」

「……分かりました」


納得出来ないけど王家に逆らえないのは臣下の定めだ。

ベルンハルトに嫌な態度をとって婚約者にしたいと思わせなければ…。


「断るのは置いておいて、殿下が嫌がりそうな行動を教えてください」

「私は魔法を教えに来てるのよ!しかも殿下の嫌がりそうな行動を教えてなにに使うのよ!」

「もちろん会った時に実行しようかと」

「馬鹿でしょ」


私は大真面目なのですけどね。


「とりあえず私はそんなの知らないから。ほら、勉強するわよ」

「分かりました」


どうやら自分で考えるしかなさそうだ。

ベルンハルトの嫌がりそうな行動は…。

考え出したところで背中を叩かれた。


「考えてること分かるけどやめなさい!」


呆れた声が響いた。

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