幕間①※ガブリエラ視点
私の名前はガブリエラ・フォン・レーゲン。
今は結婚して侯爵夫人になっているけど、元はヴァッサァ公爵家の令嬢だった。
そんな私は姪トルデリーゼの家庭教師をさせてもらっている。
家庭教師の為に実家を訪れると何故か兄ランベルトがリビングの隅っこで蹲っていた。
「ラン兄様?なにしてるの?」
「リーゼに嫌われた…」
「は?」
「リーゼに嫌われたんだぁ!」
泣き叫ぶ兄に吃驚する。
トルデリーゼは冷めた部分があるが優しい子だ。自分の父親を嫌うとは思えないけど。
「私がリーゼに悪いことをしたんだ…」
「よく分からないけど謝ったら?」
「謝ったけど怒ってた。あれは許さないって顔してた」
折角のイケメン顔が涙でぐちゃぐちゃね。
相変わらず残念イケメンなんだから。
ベラお義姉様はこんな奴のどこが良いんだか。
「……殿下のところに行ってくる」
立ち上がり、ふらふらしながら屋敷を出て行く兄に首を傾げる。
なんで殿下?
よく分からないけど今はトルデリーゼの方が心配だ。
また魔力を暴走させてないと良いけど…。
私もお世話になった侍女頭エマに連れられてトルデリーゼの部屋まで向かう。
「リーゼお嬢様、ガブリエラ様がいらっしゃいました」
「お通してあげてください」
扉が開いた瞬間、出迎えようとしてくれたトルデリーゼを抱き締める。
「ガブリエラ様、苦しいです」
いつもよりもずっと冷たい声に背筋がぞわっとする。
「り、リーゼは相変わらず落ち着いてるわね!そんなところも可愛いわ!」
褒めてみるけど、うん。確かに怒ってるわ。
エマは逃げるように立ち去って行った。
とりあえずトルデリーゼから漏れ出ている魔力を消さないといけないようだ。魔力を吸い取ってくれる魔道具を彼女に当てる。
漏れ出ている魔力を吸い取るだけなのに五分もかかってしまった。
「お久しぶりでございます」
「はぁい、久しぶり~」
いつものように挨拶してみるけど、暗い顔を向けられる。
どうして怒っているのかしら。
兄は教えてくれなかったがトルデリーゼなら教えてくれるだろうと問いかける。
「あっ、そうだ。リーゼ、なにかあったの?」
「どうしてですか?」
「ラン兄様がリーゼに悪い事をしたって嘆いてたわよ」
「実は…」
トルデリーゼは兄とした約束とそれをあっさりと裏切られた話を教えてくれた。
悪いと思いながらも笑ってしまったのは兄の失態が酷すぎるせいだ。
「それはラン兄様が悪いわ」
「縁談の件は悪くないと思いますけど、約束を破るのは酷いですよ」
「縁談の件も兄様が悪いわ。殿下の婚約者について悩んでいた陛下に『うちのリーゼはどうですか?』って勧めたのは兄様よ」
王家は魔法の存在を大事にしている。
その為、王妃は魔法の素質と魔力重視で選ばれるのだ。
王太子ベルンハルト殿下は今年で八歳。そろそろ婚約者を決めなければいけない時期に入ってくる。
陛下は誰を婚約者にするか迷っていたそうだ。
兄がトルデリーゼを陛下に紹介したのは王家が彼女を大切な存在として扱ってくれると確信があったからだろう。
しかし優しさが裏目に出るとは。
娘の事を思っているからこそ推薦したという事を言ってあげなさいよ。
「は…?」
トルデリーゼの低い声が響いた。
まずい、私も説明不足だった。
兄妹でろくなところ似てないわね、ラン兄様!
話を聞いて欲しくて声をかけようとした瞬間、一気に足元が凍りついた。
まずいわ、感情が乱れてるせいで魔力が暴走しかけてる。
この前トルデリーゼが高熱を発症したのも魔力の暴走によるものだ。魔法は便利だけど、上手く使いこなせなければ意味がない。普段彼女に付けさせている魔力抑制のペンダントをしていないのもこの状況の一端となっているのだろう。
「ちょ、ちょっと、リーゼ!魔力が溢れてる!部屋凍ってるから!」
「ちょっとお父さまのところに行ってきてもいいですか?」
本気で兄にキレてる。怖いわ、この子。
普段無気力な人を怒らせるとこうなるのね。
「もう居ないわよ。殿下のところに行くってさっき出て行った!」
落ち着かせようとトルデリーゼに近寄って背中を摩ってあげる。
「ほら、落ち着いて!深呼吸!」
「はい…」
しばらくすると落ち着いてきたのか、部屋を覆っていた氷も溶けていく。
「感情に魔力を乗せちゃダメっていつも言ってるでしょ」
「すみません…」
「あとペンダントは外しちゃダメって言ったでしょ」
注意をすれば、申し訳なさそうに頭を下げられる。
この子が普段無気力なのは無意識のうちに魔力の暴走を恐れているからなのかもしれないわね。
「きっとリーゼなら魔法を使いこなせるようになるから頑張りましょうね」
「ありがとうございます。ガブリエラ様」
大きすぎる魔力をまだ八歳の子が完全に制御するのは難しい。だからこそ彼女と同じ経験をした私が幼い頃から魔法を教えている。
……ただ、教えるのにも限度があるのよね。
リーゼは水と氷、雷の魔法を使えると思っているが実はもう一つ使える魔法があるのだ。
無魔法。
全ての魔法を消し去る事が出来るそれは失われた魔法されている。
四種類の魔法素質を持つ人間は長い歴史を見ても居ない。だからこそトルデリーゼの魔法の素質は私には計り知れない。
いつか自分の魔力に押し潰されてしまう日が来るかもしれない。そうならないようにする為に幼い頃から厳しく魔法制御を教えているのだ。
「ガブリエラ様、質問があります」
「な、なに?」
こちらの気持ちなんて全く知らないトルデリーゼはニコッと怖い微笑みをこちらに向けてくる。
「王族との縁談ってどうやって断ったらいいですか?」
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