第9話

裏切られましたよ。

大切な約束をした父親に裏切られてしまいました。目の前で土下座してくれていますけど、許せません。


「本当にすまないと思ってるんだ!」


絶対に婚約したくない相手である第一王子ベルンハルトとの縁談話が来てしまったのだ。

これがゲームの強制力って事なのだろう。

寝たら全てが嘘だった事になりませんか。


「……もういいです。とりあえず寝ます」

「待て待て。現実逃避をしたところで変わらない!」

「お父さまの裏切り者」

「うっ…」


約束してからまだ一週間しか経っていない。

それを破るって大人としてどうなのだろうか。


「相手がベルンハルト殿下じゃなかったら間違いなく断っていた!本当だ!」

「でしょうね…」

「頼む。とりあえず会うだけ会ってくれ」

「はぁ……。わかりました」


王家からの申し出を断る事は許されていない。私の我儘で父の首が飛んだら最悪だ。


「会うだけ、ですよ」

「あぁ…。で、でも、リーゼもベルンハルト殿下の事を好きになるかも…」


思わず睨んでしまった。

相手は攻略対象者ですよ、好きになるわけがありません。関わるのも面倒なのに。


「本当にすまないと思っているんだ」

「……断ったらお父様はクビですか?」

「く、クビ?」

「お仕事辞めさせられるのですか?」

「流石にそれはないと思うぞ。って断る前提なのか!」


断れる選択肢があるなら断りたい。

こんな事になるならモブ平民に生まれたかった。

ベルンハルトとヒロインが下町デートをする時に出てきた冷やかすモブ平民が良かったわ。


「もう今日は寝ていいですか?」

「まだ朝だ。それに今日はギャビーが来る日だろ」


今日は家庭教師の日でしたね。

でも、もう寝たいです。


「頭が痛いのです。変な話を聞かされたので」

「そんなにベルンハルト殿下が嫌なのか?」

「いやです」


即答しますよ。

私は心穏やかに学園生活を送りたいのだ。

悪役令嬢なんて面倒な事はしたくない。


「ベルンハルト殿下は良い子だぞ?かっこいいし、真面目だし、勉強家だし」

「そうですか…」


知ってますよ。

かっこよくて、何でも出来る完璧な王子様。完璧で退屈な日々を送っていたからこそ、元平民の貴族という異質なヒロインに心惹かれていくのだ。そして面白くないトルデリーゼは捨てられてしまう。

自分を捨てる人と婚約したいと思うわけないですよ。


「とりあえず殿下とは会います!それでいいですか?」

「分かった」


お父様を困らせてるのは分かっていますが、悪役令嬢になるのは面倒なので嫌です。


「それでベルンハルト殿下はいつ来られるのですか?」

「今日だ」

「は…?」

「今日のお昼過ぎに来る…のだ」


目を逸らさないで欲しい。

どうして来る日に言うのだ。いきなり来る事が決まったとは思えないし、おそらく言い辛くて伝えるのを引き伸ばしていたのだろう。


「縁談のお話はいつ頂いたのですか?」

「り、リーゼと約束した日に…」

「そうですか。その日には裏切られていたんですね」

「本当にすまない!」


相手は王族だ。

縁談を断らなかったのは理解出来るがそれなら前もって言っておいて欲しかった。

とりあえずベルンハルトとは会って婚約したくないと思わせるようにしましょう。

はぁ…。面倒ですね、寝たいです。

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