第8話
朝食が終わってすぐ父に声をかける。
「お父様、お話があるのですが…」
「え?」
驚いた表情を見せる父に苦笑いが出る。
トルデリーゼから話したいと言った回数は片手で数えられる程度。吃驚されるのは仕方ない事なのだ。
「な、何の話だ?何でも聞くぞ!」
「本当ですか?」
「勿論だ!後で私の執務室に来なさい!」
「分かりました。お昼前に行きますね」
「待っているぞ」
スキップしながら執務室に向かう父に呆れた視線を送った。
イケメンおじさんなのに残念な人です。
朝から疲れたので話をする時間まで寝る事にしましょう。
エマを引き連れて自室に戻るとベッドに飛び込んだ。
「リーゼお嬢様、はしたないですよ」
「疲れました…」
「お休みになられるなら着替えましょう」
「はい…」
エマはだらっとしている私のワンピースをさっさと寝間着に取り替えてくれた。
やっぱりできるおばあちゃんです。
着替えて布団に入るとすぐに眠ってしまった。
「んー…」
目を覚ましたら隣には父が立っていた。
なんで?
父の執務室に行く時間に遅刻したのかもしれないと壁にかけられていた時計を見る。しかし時間には余裕があった。
じゃあ、なんで私の部屋にいるの?
「おとうさま…?」
「リーゼ、無理していたのかい?」
「え?」
「昨日まで熱で魘されていたんだ。もしかしてまだ具合が悪いのかい?」
私の手を握ってくる父は眉を下げてしょんぼりした表情を作った。
かなり心配させてしまったのでしょう。
「違います。ただ寝ることが最高なだけです」
「そ、そうか…。うん、寝るのは大事なことだもんな」
朝の件はちょっと疲れたけど無理はしていない。
好きなだけ寝れるのは脱社畜って感じがして最高だ。
社畜といえば父は執務室で仕事をしていたはず。ここに居て大丈夫なのだろうか。
「お父様、お仕事は?」
「リーゼの話をゆっくり聞くために今日の分は全て終わらせたぞ?」
どうやら父は仕事の出来るイケメンおじさんらしい。
残念なところもあるけど公爵だけあって凄い人なのだ。
「このままで良いから話したい事を言ってみなさい」
どうやらまだ私の具合が良くないと思っているみたいだ。大丈夫なのに。
しかし一週間近く高熱で魘されていたので心配されるのは当然の事。ただ寝転んだままお願いをするわけにはいかない。
起き上がりヘッドボードに寄りかかった。
「お父様。私、結婚は自分で決めた相手としたいのです。だから婚約者は要りません…」
言いたい事を伝えると父は俯いてしまった。
貴族の結婚は大半が政略結婚だ。
いくら父が私を溺愛しているからといって許される我儘じゃなかったのかもしれない。
「…るのか」
「え?」
「結婚したいと思っている奴がいるのか!」
思い切り肩を掴まれて鬼の形相を向けられた。
かなり怒っているみたいです。
どうやら変な勘違いさせてしまったらしい。
「いません。誰を好きになると言うのですか…」
私は親が過保護すぎる為、基本的に屋敷からは出してもらえない。
出られたとしてもちょっとした買い物に連れて行ってもらえるだけ。
屋敷の人間以外と関わる機会は皆無に等しい。
そんな私が誰を好きになると言うのだ。
「そ、そうか…。痛くて悪かった」
「いえ、私が勘違いさせるような言い方したのが悪いのです」
「急にどうして婚約者の話になったのかな?」
近いうちに婚約者が出来る事を知っているから。と言うわけにはいかない。
どう返すのがベストなのでしょう。
「……お、お父様とお母様に憧れているからです!」
「私達に?」
「そうです!お二人はお互いの事をとても大切に思っています。私もお互いを大切に思える人を見つけたいのです!」
なかなかに苦しい言い訳だと思うが今の私にはこれくらいしか思いつかなかった。
もしも納得して貰えなかったら小説で読んで憧れたとか言っておけば良い。
「なるほどな」
どうやら納得してもらえたみたいです。
「貴族としてダメだと分かっています。だけど…」
「いや、良いんだ。私とベラも恋愛結婚だったからな。それにリーゼの年齢なら婚約者の存在を気にするのも仕方ない」
両親は政略結婚かと思っていたが違ったみたいだ。しかし恋愛結婚と言われたらあのラブラブっぷりも納得出来てしまう。
ぼんやり二人の事を考えていると父が思い出を語り出した。
「私は学園でベラに出会ったんだ」
「そうなのですか…」
「私の一目惚れだった。ベラは伯爵家の娘だったからな、周囲にはもっと良い相手がいると騒がれたよ。でも、無理やり納得させて結婚した。彼女しか考えられなかったんだ」
良い話を聞けましたね。
それにしても父の漢気には感服だ。残念じゃない部分が知れて良かった。
「だから、自分で結婚相手を見つけたいリーゼの気持ちはよく分かる」
「お父様…」
「リーゼ、自分で幸せになれる相手を見つけなさい。ただし私が賛成するかどうかは相手次第だからな…?」
目が死んでいる。好きな人が出来て紹介しても高確率で反対されそうだ。
しかし好きな人と結婚しても良い約束をしてもらえたのは良かった。
「はい!ありがとうございます!」
お礼を言うと頭を撫でられた。
ゆっくり休むようと言って部屋を出て行く父を見送り、深い息を吐く。
「良かった。これでベルンハルトとの婚約はなくなった」
彼との婚約がなくなればゲームの最大の見せ場である婚約破棄イベントはなくなる。
悪役令嬢が居なければ主人公は障害なくベルンハルトと結ばれるだろう。
「電波系じゃなかったら応援しましょう」
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