第7話

エマに付き添われて、下に降りると家族全員がにこにこ笑顔で出迎えてくれた。

待たせしてしまったのでしょうか?

だとしたら申し訳ないですね。


「皆様、お嬢様に会いたくて早く出てきただけですよ」


私の気持ちを察したのかエマが耳打ちしてくれる。

出来る侍女ですね、素敵です。

小さな声でありがとうを伝えてから家族に向き合う。


「おはようございます」


挨拶をしただけなのに全員が満面の笑みを浮かべてくれた。

この家族やばいですね。

嫌われるより嬉しいけど挨拶だけで喜ばれると彼らの頭が心配になる。


「おはよう、リーゼ。お父様と朝ハグしよう」

「お母様!ぎゅーっです!」


父よりも母優先になるのは仕方ない事です。

いきなり抱き着いた私を母はフラつきながらも笑顔で受け止めてくれた。

相変わらず癒される柔らかさだ。


「あらあら。おはよう、私の可愛いリーゼ」


額におはようのキスしてくれたので私も母の頬にキスを返す。

視界の端では父が項垂れていた。

ちょっとだけ可哀想ですし、今日はお強請りをする予定なので優しくしておきましょう。


「お父様もぎゅーです」

「り、リーゼ…!」


やっぱり父では癒されないようだ。

ただ大きくて安心する腕をしている。それに香水のいい匂いがするのでこれはこれでありだ。

母同様に額にキスをしてくる父。離れると期待した瞳を向けられるので恥ずかしい気持ちをぐっと抑えて頬にキスを返した。


「リーゼが私にもキスしてくれたぞ!」


そういえば初めてでしたね。

トルデリーゼ、私が言うのもあれですが父親を大事にしてあげてください。本当に私が言うなって感じですけどね。


「リーゼ」


アードリアンに声をかけられてそちらを向くと手を広げて待っていた。どうやらハグをして欲しいらしい。

両親にして彼にしないという選択肢は取れない。駆け寄って抱き着けば、しっかりと受け止めてくれた。私を追い出す存在だとしても今は優しい兄だ。

ちょっとくらい仲良くしてもバチは当たらないはず…よね?


「リーゼ、僕にもキスしてくれる?」

「え、えぇ…」


同世代の男の子にキスをするのは家族であっても恥ずかしい。出来ればしたくないところだけど、仲間外れにするわけにもいかず軽くちゅっとキスをする。

嬉しいのか蕩けるような笑顔を見せてくれます。

流石は攻略対象者だ。キラキラしている。


「リーゼ、これからは毎朝してくれるかい?」


父から尋ねられて苦い顔になる。

それはかなり嫌なのですが…。

期待が籠った視線を向けられると応えたくなってしまう。


「大人になるまでなら…」

「私たちからしたらリーゼはずっと子供だから死ぬまでしてもらえるわね」

「成人するまでにしてください!」


この世界の成人は十六歳。

乙女ゲームの舞台である学園に通っている間に成人する事になるのだ。

揶揄ったつもりなのか家族は揃って笑ってきた。

幼い子供を揶揄うとは酷い人達ですね。


「では、成人するまでしてもらおう」


どうやらこれからは朝から疲れる事になりそうです。

部屋に帰って二度寝したくなってくる。


「さて、食事にするか」


お父様の声に朝食が運ばれてくる。

うん、美味しそうですね。

美味しい物を見たら元気が出ましたよ。

今度料理人達にお礼をしましょう。

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