第6話

目が覚めたら元の世界に戻っているパターンはなかったらしい。

分かっていたけど別に夢オチって展開でも良かったじゃないですか。


「はぁ…」


小さな体で起き上がるのも目の前に広がる豪華な部屋も慣れない。前世の記憶が強すぎるせいだろう。

ぼんやりしていると部屋の扉を叩く音が聞こえてくるので「はい」と短く返事をした。


「エマ、おはようございます」

「おはようございます、リーゼお嬢様」


深く頭を下げて挨拶をしてくれるのは侍女頭のエマ・デューネだ。

父の乳母をしていた事もある優しそうなおばあちゃんです。元一般庶民だった身としては年上の方を呼び捨てにするのは抵抗があるのですが私は雇い主の娘ですからね。仕方ありません。


「さぁ、準備をしましょう」

「お願いします」

「リーゼお嬢様、畏まらなくても良いのですよ?」


前世の癖です。

失礼人間ではあるが年配の方にタメ口で話せるほど私は横柄な人間じゃない。


「エマは私の尊敬する人ですからこれくらいは許してください」

「お嬢様…」


嘘は言ってない。

エマは完璧に仕事をこなしているし、あの面倒な父を軽くいなせる人物なのだ。

母の次に尊敬したい人です。


「だから許してくださいね」


子供っぽく可愛くお強請りをするとエマは感激を受けた表情で「分かりました」と力強く返事をしてくれた。

ちょっと悪い事をしたような気分です。


「そういえば、もうすぐ私の孫がこちらにやって来るのですよ」

「お孫さんが?」

「はい、リーゼお嬢様の四歳上の女の子です」

「急ですね」


急な話ではあるが朗報だ。

屋敷の中で歳の近い子供はアードリアンだけ。女の子が来てくれるのは楽しみだ。


「今までは公爵領の方で家族と暮らしていたのですが…」

「なにかあったのですか?」


エマの息子夫婦は公爵領の本邸で暮らしている私の祖父母に仕えている。

その息子夫婦の娘さんが急にこちらに来るのは不思議な話だ。

首を傾げる私にエマは苦笑いを向けた。


「旦那様がうちの孫娘をお嬢様の侍女にすると決められたみたいで、あの子だけこちらに来るんですよ」

「なるほど」


デューネ家は代々ヴァッサァ公爵家に仕えている。

彼女の孫娘が私に仕えるのもおかしな話ではないのだ。しかし私より四歳上ということはまだ十二歳という事になる。その若さで両親と住み慣れた屋敷を離れるのは辛い話だと思う。

祖父母が居たとしても全く違う環境になりますしこちらに慣れるまで時間がかかりそうですね。


「お孫さんのお名前は何というのですか?」

「フィーネですよ」

「可愛らしい名前ですね」

「えぇ、本人も可愛いですよ」


おばあちゃんが孫を褒めている姿はほっこりしますね。

前世の私は祖父母に育てられた。その事もあって祖母と孫の温かい関係を見ると涙が出そうになる。


「しっかり者ですので、ちゃんと仕事をこなしてくれますよ」

「期待していますね」


仲良くなれたらいいな。

主従の関係になる為、難しい話ではあるが友人のような親しさを持てるように頑張ろうと思う。


「お嬢様が期待している事はフィーネに伝えておきますね」

「それはプレッシャーになりますよ」

「少しくらい緊張感を持たせるのも大事な事です」


楽しそうなエマに苦笑いで返した。

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