第5話

騒がしい食事を終えて自室に戻ると深く息を吐いた。

なんだかんだで一人は落ち着く。

家族と過ごす時間も大切だと思うが一人でいる事も大切なのだ。


「さて、もう少し情報をまとめましょう」


机の中から書きかけのノートを取り出して覚えているゲーム情報を書き出していく。

主人公のデフォルトネームはアンネ・シェーンだ。


「たぶん名前は変わってないはず。よくある転生もの小説だと変わっていなかったし」


主人公は淡いピンク髪と澄んだ青い瞳を持った美少女。

そして主人公と攻略対象者、悪役令嬢が出会うのは十五歳になったら通う事になるアウラ魔法学園だ。

それまでは会いません。

今の彼女は貴族ではない為、会う機会がないのだ。

確か今は母親と市井で暮らしているはず。

そして学園に入学する前に父であるシェーン伯爵に引き取られる事になっている。

よくある設定だと母親は亡くなった事になりますが、このゲームだと生きてるんですよね。

ちゃんと家族三人で暮らせる優しい世界だ。


「そこは良い点よね」


親を若くして失う経験は辛いものだから。

前世を思い出して胸の奥がちくりと痛んだ。

それにしても家族三人で暮らせるという幸せな状況なのにイケメン達にも好かれるとは凄い話だと思う。

ゲームの話なので深く考えたら負けだ。


「まず主人公は悪役令嬢の婚約者であるベルンハルトと出会うのよね、ぶつかって」


普通に考えたら非常識な話だ。

前世だと人にぶつかったら高確率で舌打ちされますよ。嫌な気分になるので仕方ない事ですけどね。

ただ主人公は天使のような美少女設定ですからぶつかられても問題ないのでしょう。

むしろ運命の出会いになるのだ。


「ベルンハルトが主人公に惚れた時点で婚約解消をお願いしましょうか。それ以前に婚約をやめさせたら良いのだけど陛下からのお願いだったら断れないのよね」


貴族社会とは面倒なものだ。

比べるのもおかしいけど日本の会社よりよっぽど面倒なのだ。上下の関係が厳し過ぎるのだ。あとルールも厳しい。

公爵令嬢じゃなかったら失礼人間の私は一瞬で消される存在になるだろう。

貴族社会が面倒だからトルデリーゼも貴族をやめたかったのでしょうか。


「とりあえず婚約の件はお父様に話すだけ話してみましょう」


私に甘々な父ならどうにかしてくれるかもしれない。散々な態度を取っておいて利用するみたいで申し訳ないのですが、あれは向こうが悪いので仕方ありません。


「あ…」


肝心な事を忘れていた。

主人公が転生者だったらどうしようか。

常識のある方なら良いのですが、よくある電波系だったらかなり面倒ですよ。

電波系だったら何が何でも悪役令嬢を貶めてこようとするのだ。むしろ攻略するよりも悪役令嬢を貶めるのに力を入れる人もいるぐらい。

読んだ小説がそういう傾向だっただけかもしれないけど。


「それにしたって伯爵令嬢が公爵令嬢を貶めるってよく考えたらやばいのに…」


電波系の執念深さはどこから来るのだろうか。

ゲーム愛?

本当にゲーム愛があるなら主人公の人物像を壊すような真似をして欲しくない。


「主人公が電波系ではないことを祈るしかなさそうね」


分からない将来をあれこれ考えるより今出来る事を考えた方が良いだろう。


「今日はもう疲れたし続きは明日考えよう」


徹夜続きの社畜生活を送っていた前世とは違って、今世はゆっくり眠る事が出来る。

とても幸せな事だ。

布団に潜り込み目を瞑ると眠気はすぐにやってくる。


「おやすみなさい…」

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