第4話
非常に食べ難い。
食事が不味いとかフォークとナイフが使えないとかじゃない。家族から発せられている生温かい雰囲気のせいで食べ難いのだ。
「あの、お父様、リアンお兄様。見つめられたら食べにくいのですが…」
「すまない。リーゼが美味しそうに食べるのでな。可愛くて、見逃したくないんだ」
「可愛すぎるリーゼがいけないんだ」
美味しい物を食べているのだから頬も緩む。
やっぱり美味しいものを食べている時と寝ている時が幸せですね。
そういうわけで幸せな時間を邪魔されるのは不愉快な話だ。
しかもアードリアンは私のせいにしましたね?
「お母様以外とは一緒に食べたくありません」
「ま、またベラか…」
「お母様は私の邪魔をしてきませんから」
「当たり前でしょ。そんな失礼なことするわけないわ」
うふふ、と朗らかに笑う母はやっぱり癒しだ。
それに比べて父とアードリアンは…。
呆れた視線を二人に送るとびくりと体を震わせた。
「わ、分かった!見ないようにする!」
「だから、みんなで食べよう?家族なんだから!」
「それなら良いですけど…」
あの二人の相手は疲れますね。
特にアードリアンが私に構ってくると複雑な気分になる。いずれ私をこの家から追い出す人だからだ。今は何もされてないので警戒するのは申し訳ない気分になるが仕方ない。
ふと母を見ると人参やらピーマンを残したままフォークを置いていた。
「あれ?お母様、それ残すのですか?」
ぎくりとする母の顔をじっと見つめる。
普通の子供だったら「お母様はお腹いっぱいなのね」くらいにしか思わないだろう。ただ私は普通の子供ではないのでこれを看過出来ないのだ。
「お母様、好き嫌いはダメですよ」
「だ、だって…」
「お母様が残すなら私も残します!良いですよね?」
「うっ…」
声を詰まらせる母に頰を緩める。
分かっていますよ、娘にこう言われると食べないといけない気分になりますよね。
渋々とピーマンを口に運ぶ母を見守る。
「リーゼのため、リーゼのため…。にがい…」
「お母さま、偉いです!後でぎゅーっとしてあげます!」
手を広げて言うと嬉しそうに笑う母。次々に残していた物を口に運んでいく。
偉いですね。
まるで親子が逆転したような感覚になる。
「ごちそうさま…」
疲れ切った顔で言う母に申し訳ない気分になるが彼女の事を思って言ったのだ。
許して欲しい。
儚げ美人な母も捨て難いですが、健康的なのが一番ですからね。
「お、お母様も食べたのだから、リーゼも残しちゃダメよ?」
「はい、お母様!」
向かい側の席に座る父が「うちの妻と娘がかわいいっ!」と悶えていたが二人して無視をさせてもらった。
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