第12話
シーン4 その0
夜の教室。薄暗いのは蛍光灯ついていないから。生徒はいない。
氷川は何をすることもなく、とある席の前でたたずんでいる。音もなく現れた者に氷川は驚きもせず、しかしどことなく平静でない語調だった。
「やってくれますね、ずいぶん勝手なことを」
全身白装束の上に、白い覆面をしている。その両眼に当たる部分には漢字で「思金」と書かれてある。白覆面の者は何も答えず、ただ氷川を真正面にしていた。
「恩を返せとまではいかないが、これくらいしても罰は当たるまい、みたいなことを言いたいのでしょうかね。あなたではなく、ご本人の方ですが」
やはり白覆面は無言のままだ。腰に隠そうとした手が小刻みに震えていたのを、氷川が見逃すことはなかった。
「ところで。その覆面の中、いえ、いいでしょう。僕もまんざら面白くないというわけではありませんから。どうぞ、ご随意に」
氷川の作為のこもった声を聞くと、白覆面は音もなく氷川の前から消えた。立ち去ったのではない、文字通り煙のごとく消えたのである。
「まったく。あなたは昔っからの悪戯心がなくならないのですね」
氷川は席に目を落としてから、月も星もない夜空を見上げた。
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