第7話

シーン3 その2


「根岸さん、愚痴を言うわけじゃないんだけどさ」

 土曜日。快晴の土曜日。学校が休みとあって、のんびり遊ぶのが高校生らしさなのだろうが、それはクラスメートたちの何人かであって、他の何人かは部活だったし、だからといって宇治大吾にとりたてて遊ぶ用事はない。学生の本分学習をするというのも、腕まくりして臨むようなタイプではないし、まして宿題が大量に出ているわけではなかった。つまり、暇なのである。その暇な時間を余暇という。余っちゃってるわけだ。それを指摘したのはほかでもない根岸さよである。で、その根岸さよに首根っこを引っ張られる勢いで、この日は午前中から、かの書籍の所在確認に足を棒にしていたのである。

 晴天ともあってコンビニで飲み物とおにぎりやサンドウィッチを買って公園のベンチで昼食にした。その後バス移動をして市民に開放されている、とある大学の図書館へ。ここで三件目である。宇治大吾がこの図書館を出てバスを待っている間に嘆いたのも無理はない。

「どこで見たか、思い出せない?」

 愚痴である。他に出るのは前向きな言葉ではなく、ため息である。

「やっぱり学校な気がするんだけど」

 まったくもって本日の数時間をむげにする一言に、宇治大吾は瞬く間に脱力したくなる。すでにため息は漏らしてしまったが。

「でも無いから、こうして歩いてるんでしょ」

 ド正論だが、引っ張り回される方としては、

「で、どこに行くの、次」

 投げやりになるのも無理はない。

「本屋かな」

 宇治大吾に再び体力が戻る。しぼんでしまった風船に空気を入れれば、膨らむというもの。誰も好き好んで、空気の入ってない風船の方を持とうとは思わないだろう。

「それって何軒あるの?」

 決して前向きな意味でではない。街の本屋すべてではないだろうな、を確認したいだけである。あくまで根岸さよが体育祭前に仮装行列の準備のために資料探しに回った本屋の数を聞き出したいのである。

「二軒。あそことあそこ」

 数は安堵したものの、本屋の場所を聞いたせいで脱力してしまった。両方ともだだっ広い大型店である。しかも、バスを使わないと行けない。

「ちゃんと休憩するから、ほらしゃんとして」

 ちょうどバスが来て、アキレス腱を伸ばそうとしていた宇治大吾を運んだ。


 結局、市内(と言ってもいずれも県内トップの在庫を誇る店舗だが)の大型書店にもなかった。

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