春ピュア【完全版】
川谷パルテノン
フレンチキス
「お世話になりやした」
「ほんとに出てくのか」
「もう黄身彦にメーワクかけたくないから」
「どうやって生きてくつもりなんだ」
「牛丼屋でバイト」
「出来るわけないだろ」
だってキミには、キミの両腕には不自由な自由が付いてんだから。
俺の名前は
俺がハルと出会ったのはバイトを終えた深夜一時半だった。店の戸締りを終えるとゴミ置き場のあたりから呻き声が聞こえた。酔っ払いか、面倒だな。そう思いながらおそるおそる近づいた。
「あ"ぁああーーー!!!」
「パピヨン! ではないなぁああ!」
呻き声の主は突如叫んだ。腰を抜かした俺だ。なにせ蹲ってた時はよく分からなかったが、たぶん威嚇のつもりで立ち上がったそれの両腕が大きな翼だったのだ。
「ええ! えーーーッ! は? えええーーーーーッ!」
「助けて!」
「こちらこそ!」
「殺さないで!」
「よろしくお願いします!」
「……なんなの?」
「何ってなにがなんだか。キミは……鳥? キミ話せるの?」
「お前怖くないの? アタシが」
「怖い……かな。けど状況がよくわかんなくてどうしたらいいか思い浮かばないしなんていうかこんなのはじめてっていうか何に似てるかって言ったら親切心で道に迷ってたイタリア人のお姉さん助けた時の成り行きという行きずりのそれがそれで童貞を消失しかけたあの日に似た」
「ちょっと!」
「はい!」
「何言ってっかわかんない。お前、アタシを助けてくれるかと聞いている!」
「そりゃあ……はい?」
猛禽類。例えば鷹や隼、トンビにフクロウ、そんな仲間に似た茶味がかった羽根。俺はハルに着ていたマウンパを着せて隠すように連れ帰り、アパートに匿った。事情を聞けば、どこぞの研究所に閉じ込められていたハルはそこから脱走し、命からがらこの町に迷い込んだらしい。漫画か。ともかくハルは今、その研究所の追手から逃げている最中で、俺に匿ってほしいと言った。映画でしたか。よく見ると確かに肩に銃創らしきものがあって、俺はちびった。
「でも俺はこれからどうしたらいいとか全然分からん。わからんわからんわからんわからんわからんわからんわからんわか」
「包帯ある? あと消毒液」
「包帯はないな。ハンカチでいい?」
「いいよ。あとそれでいい」
ハルは "大五郎" とデカデカ書かれたボトル酒を指(爪?)さした。
「口に含んで」
口に含んだ。
「吹きかけて」
吹きかけた。
「あ"ぁああーーー!!!」
「ああもう! ナニ!? まあそりゃ沁みますわな大五郎だもの! 大五郎なんだもの!」
「ハンカチ、あとで買って返すから」
「いいよ、そんなの。だいたいその格好じゃ」
ハルはキッと俺を睨んだ。俺もなんだか察して少し口が滑ったかと反省した。痛みが落ち着いたのかハルはそのまま眠った。俺は一睡も出来なかった。
翌朝、ハルの枕元にメモを置いて俺は家を出た。受け入れ難い現実がどうしようもなく重くのしかかってきて、セレブが止まるようなホテルを片っ端から検索してそれぞれの宿泊費を声に出して唱えながら身の丈と擦り合わせを行った後、とにかく今すぐやれることリストの最上位をピックアップし大学へ行くことにした。
「黄身彦どったの? 殺し屋みたいな目してんぞお前」
そりゃ寝てないからね。彼女、
「嫁狐雨さん」
「なんよ?」
「遊戯王、読んだことあります?」
「ないよ」
「孔雀舞って知ってます? そのデュエリストの持ちカードでハーピィ三姉妹」
「だからないって。遊戯王の話やめろ。それより大丈夫かマジで。何あったん?」
俺は正直に、昨晩起きたことを嫁狐雨さんに話した。嫁狐雨さんは爆笑し尽くすとハルに会わせろと言ってきた。浮気した元カレを簀巻きにして、バイクで町中を引き回した結果鑑別所にぶち込まれたらしい彼女の胆力は、そばで見てきた俺自身重々承知していたが、ハルと会わせろだと。まあ話した以上はそうなりますわななのだが「ややこしや、嗚呼ややこしや、ややこしや」と俺の中で小林一茶的な直感が働く。
「誰よこの女!」
ハルは俺が今朝置いたメモを守ってじっとしていたらしい。作り置きしてあった握り飯も、皿の上がしっかり綺麗になっていた。なかなか可愛げがある。それはそれとしてまるで俺が間男のような気分になった。
「ハル、落ち着いて。この人はまあまあ信用できる痛!」
「まあまあってなんだ。へえ、可愛いじゃん。あんたが黄身彦の彼女? よろしくねハルちゃん」
ハルは威嚇の眼をやめない。無理もない。殺されかけたんだ。人間なんて嫌いに違いない。それはそれとして嫁狐雨シトネは流石だ。ハルの翼を見ても物怖じひとつしない。それどころか茶化す始末。ややこしや!
「はい、ボンクラはどいて。おっ邪魔しまーす」
嫁狐雨さんはズカズカと部屋に上がり込み、ハルに近づいてその傷口を確かめようとした。
「なんだ! 触るな!」
ハルがはらった爪先が嫁狐雨さんの頬を掠めた。裂けた皮膚から血が垂れる。
「……あのねハルちゃん。ちょっとおとなしくしろー。こんな手あてじゃ化膿すんぞ。ちゃんと薬買ってきたから。ほら、肩出しな」
しばらく嫁狐雨さんを睨んでいたハルだったが動物の本能が屈服したのか、些か煮え切らなさは残りつつも嫁狐雨さんの言うままに肩を差し出した。恐るべし嫁狐雨シトネ。それに比べて俺という奴は、ただ黙って突っ立っているしかなかった役立たずだ。飛び出し坊やの方がまだ躍動感がある。
「これでよし! ハルちゃん、困ったことがあったらいつでも言いな」
「……アリガト」
「おい黄身彦!」
「はい!」
「泣かすんじゃねえぞ」
「承知してます」
「じゃ、私帰るから。ほなね」
嫁狐雨さんがバイクで走り去るのを窓から二人で見送った。さて、どうしたものか。
「黄身彦はあの女好きなん?」
「何言ってんの突然」
「どうなん?」
「まあ、憧れではあるかな。俺、子供の頃から仮面ライダーが好きでさ。知らないか。バイクに跨った正義の味方なんだけどね。嫁狐雨さん見てると似てんなって。あんな風にカッコよく生きてきたいなって」
「ふーん、それだけ?」
「妬いてんのか?」
この後、顔がメロンパンになった。
「んじゃお先っす!」
「白身沢くん、最近早いね。夕勤足りてないから頼みたいんだけど」
「すんません。ちょっとコレがアレなもんで」
「え……」
店長は俺の肩に手を置き、もう一方の手でグーサインした。夕勤イズノープロブレムと訳の分からない言葉を発し、俺は妙な誤解を与えた気もしたがハルを一人にしておくのも心配なので気にしないことにした。
「ただいまあ」
「おかえり黄身彦」
悪くない。悪くないぞ。考えてもみればしがない大学生が鳥の手足をしているとはいえ年頃の女の子と一つ屋根の下で慎ましく生活しているなんてめちゃくちゃ悪くない! いやまてまて何を考えている白身沢黄身彦。はじめての恋人がジンガイ彼女はハードルの下くぐれるくらいでもはや棒高跳びに競技変更だろ! ちょ待て待て恋人て! 相手の気持ちとかどうなんだ? お前のそういうひとりよがりなところ全然治んないなホント。確かめるか? なーにを言っちゃってんですか黄身彦すぁん! おい、よせよ照れんじゃないよまったく。うんまあそりゃあハルは可愛い顔してるし手羽先だけど冬は温そうだしこうなんていうか全裸で毛布に滑り込んだ時みたく満たされた高揚感と共にぃ耳元で「きみ……ひこ」ぬあああんて囁かれた日にゃおいコラもっぺん言ってみ?「きみひこ」そうそうキミ
「ヒコ! 黄身彦ってば!」
「はい、すんません」
「なんで謝る。それよか今日ばんごはん作った」
「何、だと」
「だから、ばんごはん。作った」
泣いた。その場に突如として顕現したハリウッドスター達が立ち上がって拍手しながらステージへと向かう俺を祝福した。俺は少しばかり照れ笑いを浮かべながら、ステージ上に待つハルの元へと駆けていく。ハルの手にはトロフィーなんかよりも数千倍の価値を持つ"お手製のばんごはん"
「ナンコレ」
「何ってばんごはんだよ!」
「火、通した?」
「生だよ」
「そうだね激レアだねブルーアイズだね。それはさておきなんの骨かな」
「わかんない」
「肉:骨=0.5:9.5くらいでほぼ骨だね。そう骨だ。そして何かわからないんどりやゃああああ!」
ぶん投げたばんごはんは窓ガラスを突き割って放物線を描きながらサヨナラホームラン。
「何すんのよ! せっかく作ったのに!」
「すまない! 俺が悪い! それでいい! だがアレはダメだ! 結局何なんだ! すまない!」
ハルは怒りと悲しみで押し入れにとじこもってしまった。謝罪の言葉を投げかけたが届きはしない。俺は閉ざされた押し入れ扉に背もたれてため息を吐いた。
「なあハル。俺は君がハーピィじゃなかったらって時々考えてしまう。ハルはいい子だし、今日だって俺のために晩御飯まで作ってくれた。それはめちゃくちゃ嬉しいし正直こんな幸せでいいのかって思ってしまう。なのに俺は、君がハーピィじゃなければなんて……ほんとにゴメン」
「めちゃくちゃ傷ついた」
「ゴメン」
「絶対許さない」
「だよな」
「ばんごはんつくりなおせ」
「え」
「黄身彦が思ってるほど私は子供じゃない。私は私がなんなのか充分わかってるつもりだし、それで人間にされてきたことも絶対許さない。私も黄身彦が人間じゃなかったらなって思う。それは一緒なんだよ。今日のところはばんごはんで手を打つ」
「ハル……」
二十歳を過ぎてから久しぶりに泣いた。最後に泣いたのは映画館で観た『ドラえもん のび太の新恐竜』。だいぶ最近だった。泣きながら包んだ餃子は不細工で、焼いてる途中に具が飛び出たりもしたけれど、俺は元気です。少しばかりムスッとしたハルは半ば怒りながらも餃子を口に運んで「まあまあな」と言った。
それからはハルがハーピィであることを気にしなくなった。というと疑問は残るが、以前よりは自然な感じだと思う。人間かハーピィかで俺たちを見るんじゃなくて、友達だと思うことができる。それは大きな一歩だと感じる。
「白身沢くん。奥さんの調子はどう? 予定日はいつ? 学生結婚でましてや子持ちなんてさ。大変だと思うけど応援してるよ」
めんどくさいのを残していた。まあいい。勘違いとはいえシフトを優遇してもらえてる。二人分の生活費となると仕送り合わせてもカツカツだがやってけないわけではない。真実を知ってる嫁狐雨さんも協力してくれてるわけで……ただこの静けさは妙に引っかかる。ハルが逃げ出してきて怪我まで負わせた研究所のヤバ連中が何の気配も見せない。ハルの嘘というのはないにしても、これだけ音沙汰がないと返って不安ではある。俺はハルに聞いた情報からなんとなく調べてはみたが詳細は出てこなかった。気にしてどう出来るわけでもないが、どうしたものか。
***
「ハルピュイアはまだ見つかりませんか?」
「逃亡先の町まで特定出来たのですが」
「なんです」
「厄介な連中が周りにいまして」
「奴ら、ですね。まったく。ならば急がなくてはなりませんね」
***
「ねえ君。ちょっといいかな」
「急いでますんで。すんません」
「少しで構わないんだ。話を聞かせてほしいだけ。僕は吉田という怪しくないおじさんでとある機関の室長をやってます。というのも昔クラスメートにマンティってちょっ待っ」
「すんませんすんませんすんませーーッん!!」
ヤバさの相場の黒スーツ、とある機関の室長、なんかよく分からんバックボーン。間違いない奴らの何かだ! 俺は猛ダッシュで自宅に向かった。しかしなぜ気づかれた。ハルを一度だって外に出したことはないはずだ。
「もうハルちゃん! 白身沢さんにも言っといてよ。窓ガラスの一件でも迷惑してんのに、まああんたいい子だから同居は目を瞑るけど他の住人さんに迷惑かけないでね」
「親密になっとるーー! おいハル何大家さんと仲良く会話してんだ!」
「何ってことはないでしょ! そりゃあんた毎晩毎晩ケラケラ笑って話してりゃ大体わかるわよ!」
「まあね、一応、布団被って隠してるから真相、そりゃあバレちゃないんだろうけどだあがしかし! 大家さん、あんた妙な連中に俺たちのこと」
「聞かれたから話したわよ。警察に協力するのは市民の義務でしょ。白身沢さん、あんた何したの?」
「まっずーーい! それポリースじゃなああい! いくぞハル! とりま嫁狐雨さんとこで匿ってもらおう!」
「ちょっと待って黄身彦! 布団取れちゃう」
「さっき会ったんだ変な奴に。ここは連中に割れてる。すぐ逃げよう!」
俺たちはチャリンコに跨って嫁狐雨さんの済むマンションへと向かった。
「で、なんでUNOやってんすかね我々」
「ドロフォオオーー! ハイ黄身彦の負けー! 脱 げ 脱 げ」
俺は脱衣UNOに六連敗しパンイチになっていた。逃亡の最中、ハルは結構見られてしまったと思う。その中に吉田やその仲間がいたかもしれん。となればここも時間の問題だ。どうする黄身彦! 考えろ! 感じるな(主に乳首の冷え!)! 考えろ!
「しゃ、じゃあ今日は寝ろ。で明日は外出だ!」
「何を言ってんだ」
嫁狐雨さんの提案で三人で遊びに行こうって話になった。莫迦言ってんじゃないよと俺は必死に止めたが、意気投合した女二人のエネルギーには勝てるはずもなく押し負けた。
桜の咲く季節。ならやっぱり花見だろ。嫁狐雨さんはそう言った。人目は避けて通れんぞ、と俺は異議を唱えたが、とっておき穴場があると彼女は言った。ハルにはマントみたいなポンチョみたいな変な服を着せる。翼よりはマシだ。脚の爪もかろうじて隠せる。
「バイク、速いね」
「だろ! 風が気持ちいいでしょ」
「いつかはこんなふうに風を切ってた」
「そうなんだ。また飛びたい?」
「どうかな。ちょっと怖い」
「……そっか」
「黄身彦大丈夫かな?」
「え、あー、大丈夫大丈夫」
なんで俺だけチャリンコなんだよ。ウォリャーーーッ!!
嫁狐雨さんが教えてくれた穴場とやらには俺たち三人だけしかいなかった。獣道を掻き分けた先に、誰が面倒を見ているわけでもなさそうな桜の木が一本と、澄んだ池があった。
「こんなところ知りませんでした」
「まあ立ち禁だからね」
「綺麗」
「でしょ。昔はよくカレシときてたんだけど、まだ残ってて良かった良かった」
池で魚が跳ねた。ハルの喜ぶ顔は、これまでのドタバタを全部洗い流す。なんだかんだ言っても俺はこの子がいつだってこうやって笑っているべきだと思った。不安なんてどこにもなく、ただただ自由に幸せでいるべきだと。しかし人間社会ってやつは狭苦しい。
「ようやく会えたなハルピュイア!」
穴場の周りを囲む木々が騒めき、風が不自然に流れたかと思うと、池の水は大きく震えて、桜の花が哀しげに散った。軍用ヘリのけたたましい飛行音。拡声器から聞こえる野太い声。奴らがこんな開けっ広げに現れるなんて、俺たちは油断していた。ハルの顔が強張っていた。
「ハルちゃん! 黄身彦! バイクんとこまで走って!」
「何やってんだハル! 行こう!」
「けて……死にたくない、助けて」
「しっかりしろ! 俺が絶対……」
絶対? そんなものはない。それだけは絶対だ。けど。
「俺が絶対助けるから!」
バイクを置いた場所に俺たちが辿り着く頃、奴らはヘリを無理やり着地させてきた。プロペラに巻き込まれて周りのなんやかんやが吹き飛んだ。飛んできた街路樹に薙ぎ倒された嫁狐雨さんの愛車は絶賛炎上中。
「ハルちゃん、その羽根。飛べるんだよね?」
「怖い、怪我してからずっと飛べてない」
「頼む。お願い。ここは私がなんとかする。だから黄身彦連れて逃げて」
「シトネさん!」
「助けるんだろ? 黄身彦、行って」
「……ハル、行こう」
「でも。シトネは」
「行こう。大丈夫、大丈夫だから」
***
「で、私を超えてけるわけ? バイクの恨みは高くつくよ」
「イキがるなよ小娘。我々は武器の使用も辞さない。盾突くなら命は保証しかねます」
キュュイイイイーーーッ!!
「おやおや、間に合ったかな?」
「ッッ!!」
「誰ッ」
「超稀少種保存保護対策室室長吉田良夫です。お嬢さんここは僕にお任せを。何せ僕にはかつてクラスメートだったティコ太郎がその身をもって教えてくれたマンティコア式体術が備わっていますからねホァアア」
「なんだか知んないけど、吉田? 勝てる?」
「奴らはドーベルマンより強いか。否、なら問題なし」
「ああもう! 容赦しなくていい! 叩きのめせ!」
***
とにかく走った。飛んでくれ、頼む。そう祈りながら。しばらくして、研究員だかヤクザだか知らんけど物騒な奴らが後を追ってきた。俺はふと残してきた嫁狐雨さんのことを考えてしまい足が止まった。
「黄身彦?」
「ごめんハル。今言うことじゃないけど……俺、シトネさんのことが好きなんだ」
「……」
「でもハルのことも好きなんだ。どうしたらいいかわからない。けどどっちも守りたい。ごめん。ほんと頭悪くて。弱いのに。……ハル、君はきっと大丈夫だ。もう傷は治ってる。キミは俺の百倍じゃきかんくらいつよい。だから大丈夫。必ず助かる。アイツらは俺が食い止める。行って」
「やだ!」
「行け!」
「やだよ……」
「泣くなよ。俺も泣きそうになる。頼む。もう追いつかれる。行けハル!」
最低だ。こんなプロポーズあるかよ。ハルの背を見送った俺は覚悟を決めた。来るなら来い。悪漢ども! 悪漢と俺の距離、約一〇〇メーター、八〇、六〇、怖い、怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い……
「ハル……飛べーーーーーッ!!」
時間が止まっていた。俺は真っ白な空間にポツンと突っ立って上を見上げている。死んだか。いや、そうじゃない。鼻の上にひらりと落ちた茶色い羽根。俺は笑った。
ウーーーーーーッ! ウーーーーーーッ!
「警察だ! 器物破損! 航空法違反! その他なんやかんや! 逮捕ーーーーーッ!」
唐突に現れたパトカーから嫁狐雨さん(とアイツは確か吉田?)が降りてきて親指を立てた。
「いやーパトカーなんてはじめて運転したよ。ところで君なかなか強いね。ウチに来ない?」
「あんたのおかげで助かったわ。だが断る!」
「「アーッハッハッハッハ」」
俺はその場にへたり込んで笑い転げた。笑って笑って笑って笑って笑って笑い尽くした後、あの子の羽根を握りしめてちょっとだけ泣いた。
「お世話になりやした」
「ほんとに出てくのか」
「もう黄身彦にメーワクかけたくないから」
「どうやって生きてくつもりなんだ」
「牛丼屋でバイト」
「出来るわけないだろ」
「嘘。なんか政府? で変な部署? があって支援? してくれることになりました」
「(吉田だな)ようわからんがよかったな」
「まあね。黄身彦」
「なに」
「ごめんね」
「謝るのはこっちというかあの時は土壇場で言うべきことだったのか否かと今でも悩」
「ありがと」
は? いやいや、いやいやいやいや! 違う。違う違う違う違う! 鳥だから! 鳥にキスするとかそういう! そういう感じだからこれは! それにフレンチ! 圧倒的フレンチ!
春ピュア【完全版】 川谷パルテノン @pefnk
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