第2話 ●初仕事 ~ ここはどこ?
転送された先は、目の前に大きな草原が広がっていた。
青い空、緑の草原、その草原の上を駆け抜ける風。
一見、カナタたちの住んでいる世界と同じように感じた。生えている植物、飛び交う鳥、時々顔を出す動物。ほとんど、見たことのあるものであり、生態系もほぼ同じような雰囲気だった。
ただ、そうした生物をよく見てみると、微妙に姿かたちが違っており、初めて見るものばかりだった。
「オオトリさん、こちらです。」
カナタたちに向かって、馬車から一人の男性が声をかけた。
「コネクトさん、お待たせしました。」
そういって、オオトリはその男性に返事をした。
コネクト、今回のクライアントである王国の担当者だ。
「今回もどうぞよろしくお願い致します。」
そういって、コネクトはカナタたちに丁寧に頭を下げた。
コネクトは見た目、筋骨隆々で、たくましい、という言葉を体現している。
だが、その表情はどこか少し自信なさげで、腰の低い感じだ。
改めて説明するが、カナタが仮入社している、コンサルタント・オブ・ディファレンスワールドは、異世界からの依頼を承り、コンサルティングしている会社である。
こちらの会社独自で開発した、現世界と異世界を行き来する転移装置を用いて、自由に行き来することが可能となっている。
そして、今、クライアントの担当者とあらかじめ約束していた場所であった、とのことだ。
「コネクトさん、紹介いたします。こちら今回担当になります、カナタです。よろしくお願い致します。」
「カナタです、よろしくお願いします。」
オオトリがコネクトに紹介したのちに、カナタは用意された名刺をコネクトに差し出した。
「こちらこそよろしくお願いします。」
コネクトは、再び深々と頭を下げた。
そしてカナタからもらった名刺を見て、
「営業部長さんですか、わざわざありがとうございます。」
コネクトが言った言葉に一瞬、カナタの頭にはてなマークが広がった。
(営業部長?)
カナタが改めて名刺を見ると、確かにそう書いてあった。
(今日、仮入社で営業部長の肩書って。やりやがったな、コイツ!)
カナタがオオトリのことを睨むように目を向けると、案の定そっぽを向いていた。
だが、ここで揉めるわけにはいかないので、カナタはグッとこらえてスルーすることにした。
「ちなみに、今回の調査については、このカナタにすべて一任致しますので、ご了承願います。大丈夫ですよ、とても優秀なので。」
「そうですか、それは心強い。よろしくお願いします。」
オオトリがコネクトにそう告げると、コネクトは満面の笑みを浮かべながら、カナタの手を両手え握りしめ、上下にブンブンと振った。
(あー、もうどうにでもなれ…。)
カナタは自暴自棄になった。
今回の依頼を端的に言うと、【赤炎石】の出荷量の減少の原因の究明だ。
この王国のひとつの収入源になっているのが、【赤炎石】という石の採掘である。
この世界では、火、水、風、土、光、の5大元素を基にした鉱石が存在し、生活に大きくかかわっている。それを加工することにより、様々なものを作り出している。日用品から軍事に関わるものに至るまで多岐にわたる。
例えば、【赤炎石】であるならば、コンロから銃火器に至るまで、火に関するものならば幅広く使える。
そのため、この【赤炎石】は、非常に人気の鉱石である。
そして、貴重な鉱石のため、採掘量や出荷量は国で管理している。
このカナガ王国でも国内のいくつかの場所で【赤炎石】は採掘されている。
だが最近、カナガ王国内のカワサ領で採掘されるその鉱石の出荷量が最近目立って減ってきており、その原因を究明することが今回の依頼である。
「お二人に先に言っておきますが、調査をするにあたり、少し困ったこともあるんですよ。端的に言うと政治的なことです。」
あー、と思わず、カナタは納得してしまった。
こうした調査をする際に、だいたい障害になるのが、利権であり、しがらみであり、政治的問題である。
カワサの領主であるガメツが、国王の遠縁にあたり、それが障害になっている。
そもそもこの問題は領主が調査し解決する問題なのだが、一向にそれを行おうとしない。
国王の遠縁という立場のためか、国王のことも若干なめているふしもある。
そのため、王直々にコネクトを派遣しているのだが、そもそも国王に対してそのような見方をしているため、当然非協力的なところもある。またコネクトも国王の遠縁ということで強くは言えない。
これはコネクトに同情するところである。
そうしたこともあり、しがらみがない、他者であるオオトリに今回の依頼をしてきた、ということが経緯である。
カナタとしてはしがらみも、失うものもないので、ある意味好き勝手できる。そう思うと少し気持ちが高まってきた。
なんとなく話からすると、この領主が搾取しているように感じられるが、まだ証拠もない。
調査するにあたり、ある程度、事前にあたりをつけることは大切だが、決めつけてかかると、結論ありきでの調査になり、調査が難航する可能性も高いので、あくまでも冷静に分析していく必要がある。
「では、さっそく現地に向かいますか。」
そういって、カナタたちは現地に向かった。
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