第3話 ●調査開始 ~ とにかく情報集め
「こんにちは。トウリョさんいらっしゃいますか?」
コネクトはそう言って採掘現場を取り仕切っている事務所に顔をだした。
そこの奥の机に、大柄でいかにも職人という男性がいた。
「おお、コネクトさん、久しぶり」
「今日は紹介したい方がいるので、お連れしました。」
コネクトは彼の後ろにいる、カナタとオオトリを紹介した。
「初めまして、カナタと言います。そしてこちらが私の上司のオオトリです。」
そう言って、カナタは名刺をトウリョに差し出した。
「おう、よろしく。」
トウリョはカナタの名刺を見たあと、コネクトの方に顔を向け、
「で、コネクトさん、今日はやっぱりアノ件か?」
トウリョは先ほどとは変わり、少し顔つきが険しくなった。
「ハイ、その件です。で、今回調査をこちらの、カナタさんとオオトリさんにお願いすることになりまして、ご挨拶にきました。」
「何度も言っているけど、オレは何も知らねーぞ。今までと同じ量採っているからな。」
トウリョはうんざりした感じで、若干吐き捨てるように言った。
【赤炎石】の採掘から出荷に至るまでの簡単な経緯はこうだ。
まず、資格をもった採掘人が山から【赤炎石】の原石を採掘している。
その後、同じく資格をもった鑑定人が、質の良し悪しを鑑定する。
そして、その鑑定を領主が承認する。
承認後、管理している国に集められる。
そして最後に、国が販売する。
なお、質の悪い石(粗悪な石)は鑑定人、領主、もしくは国が破棄する(これは全体の石の質を守るための措置である。)
「繰り返し言うけど、オレたち採掘人はくすねちゃいないぞ。オレたちだって、お国からの採掘する資格があってやっていることだから、くすねたら最悪、懲役刑だからな。」
トウリョのいう通り、採掘人は国からの資格があって初めて採掘できる。だれしも採掘できるわけではない。
採掘人は比較的石を横流しできる立場にあるため、そこは表向き厳しく管理されている。
トウリョの話では、採掘量は変わっていない。石の質も悪くはない(そもそも石の質は採掘場の傾向からある程度一定に保たれており、大きく変動することはまずない)。
だが、ここカワサでの鑑定の時に、質の悪い石が多い、ということで、以前より1~2割ほどの粗悪な石として弾かれる、とのことだ。
「トウリョさん、なぜ、粗悪な石として弾かれるか、について鑑定人に聞いても、納得のいく答えはもらえていない、ということですかね?」
「おう、そのとおりだよ。話の分かる兄ちゃんだな。」
カナタの質問の仕方にも少しテクニックが仕込まれていた。
このような時の質問の仕方でしがちなやり方が、
『粗悪な石として弾かれるかについて、質問はしなかったのですか?』
と聞いてしまう。
そのように質問すると、当然、『そんなこと、もうとっくにやっているよ!』と怒り交じりの返事がくる。
なので、相手の心情もくみ取り、相手がやることはやっている、という前提の質問をすることにより、調査をよりスムースにすることができる。
「それ以上、鑑定人に踏み込めないのは、法的な理由ということでよいですか?」
「ああ、そうだ。なんでも鑑定人の結果がすべてだ、ということだからな。」
この鑑定人についても資格が必要であり、かなり難解な国家資格であるとのことだ。
もし、誤った鑑定をするならば、資格のはく奪や懲役刑まである。
よって、それだけ権威があり、かつ責任も重い。
ただ、中にはそうしたリスクも承知しながら、あえて間違った鑑定をして、質を偽る輩もいる、とのこと。
「別の鑑定人に依頼ということはできなかった、ということですかね?」
「ああ、そうだよ。鑑定人は国から選任されたやつが、地域ごとに配置されているからな。オレたちとしても採掘した石は、その担当している奴にしか持ち込めないんだよ。」
なるほど、この査定方法は、システム的に大きな問題がありそうだが、そこは今回あえて突っ込まないことにした。今回の調査は、あくまでも出荷量の減少について調べること。あまり他のことに首を突っ込むと解決が遅れるケースもある。
「それにな、鑑定人の判断ていうのは、絶対的なんだよ。それにもし文句を言ったら、採掘する権利を奪われちまうことだってあるって話だ。それくらいこちらからしたら恐ろしい存在なんだよ。」
「だから、その権力を使って、悪さをしている鑑定人も多くいるって話だ。オレとしては、わざと鑑定結果を悪いようにしているとしか思えないよな。」
トウリョは怒りと落胆がまじりあった表情で、吐き捨てるように言った。
「トウリョさん、スイマセン、採掘量と鑑定結果の帳簿を拝見できますか?」
「おお、いいぜ。」
帳簿を見たところ、採掘量はここ数年変動していない。だが、鑑定結果が明らかに変わっている。
以前は、優良な石と粗悪な石の割合が、8:2だったが、最近は7:3、ひどい時は6:4となっている。
「ちなみに、次回の鑑定人に鉱石を出荷する際、立ち会わせてもらっても大丈夫ですか?」
「おお、いいぜ。ちょうどこのあとちょうど鑑定人のところにもっていくところだから。」
そういうと、トウリョは奥の倉庫に行って用意を始めた。
「では私たちは、外にでて待っていますので。」
そういって、カナタたちは事務所の外に出た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます