コンサルタント・オブ・ディファレンスワールド ~ブラックでもなければ、ホワイトでもない?~
まゆずみかをる
第1話 ●序章 ~ 勝手に申し込み
とあるアパートの一室で、一人の青年が床に大の字に寝転がり、天井を見上げている。
「そろそろ真面目に仕事さがさないとな…。」
名はカナタ、彼は半年前、会社をクビになった。
理由は不正の告発。
彼はあるコンサルタント会社に勤務しており、クライアント会社において不正を見つけた。
だがそれを見つけてしまったがために、結果クビとなった。
ことの詳しい経緯としては、以下である。
彼が担当のクライアント会社に訪問したところ、ある役員たちが会社の製品を横流ししていることを発見。
現場の人間が汗水たらして作った製品を、だ。
それをクライアント会社の上層部に報告したところ、見なかったことにしろ、と言われた。
後日、彼の所属するコンサルタント会社から担当替えを言い渡された。いわゆる口封じだ。
そして最終的に、そのコンサルタント会社もクビになってしまった。
コンサルタント会社の上司曰く、「正しいことがすべて正しいわけではない。不正にも目をつぶるべきだ。」と。
それは一理あるかもしれないが、カナタ自身としてはどうも釈然とせず、結果的にクビになってよかった、と感じている。
すべてをつまびらかにすることが良いとは言えないが、不正を正そうとしない会社との関係を断ち切ることができ、ある意味せいせいしていた。
だが、現実問題、今無職である。
「そろそろ、真面目に職探ししないとな。」
会社都合でのクビ(退職)だったので、失業保険はすぐでたので、しばらくは生活は困らなかった。
だが、その受給期間もそろそろ切れるので、早く次の職を探さないとまずい状況である。
PCを立ち上げ、Webから職探しを始める。
すると、ひとつのバナーから新しい職探しサイトを見つけた。
【わくわくるんるん求職サイト】
いかにも怪しげなサイトである。
だが、職探しをするにあたり、手段は多いことにこしたことは無いので、とりあえず新規登録だけすることとした。
「とりあえず、名前とメアドだけ入れて登録するか。」
そういって、登録した次の瞬間、
「ピンポーン」
彼のアパートのチャイムが鳴った。
彼のところへの訪問者は宅配便の業者さん以外、まず無い。
(あれ?何か注文したかな?)
そう思い、玄関のドアを開けると、
「おはようございます!当社の求人にお申込みいただき、誠にありがとうございます!」
いきなり、眼鏡に七三分けの紺色のスーツを着こなした男がドアを勢いよく開け、なんの躊躇もなく玄関の中に入ってきた。
「あなたの職歴に感激し、当社としてはぜひ採用したいと考えておりますので、ぜひこちらの契約書にサインを!さあ!さあ!」
「印鑑がない?拇印でいいです!血判でいいです!ハイ、どうぞ!」
男は契約書と思われる書類を取り出し、カナタの指をグイグイと書類に押し付けようとしている。
「ちょっとまった!」
そう言って、カナタは強引にその男の手を振り払った。
「何か問題でも?」
一体何がおかしいんだ、と言わんばかりの顔で質問してきた?
「問題だらけだよ!あなただれ?契約ってなに?それにあなたの会社に申し込んだ記憶はないんだけど!」
「はて?おかしいですね?先ほど、当社の求人に応募してくださったはずなのですが?」
カナタの質問に対して、サラっと返答をする男。
「さっき、怪しげな求人サイトに名前とメアド登録したけど、求人に応募なんかしてないよ。」
「おかしいですね。ちょっとPC見せていただけますか?」
そういうと男は躊躇なく、部屋の中に入りカナタのPCを操作しだした。
先ほど登録した求人サイトのページを開いたままであり、
「あー、なるほど。」
というと勝手に、マウスを操作して、その求人サイトから、コンサルタント・オブ・ディファレンスワールドと書いてある会社の求人に応募をかけてしまった。
「当社、コンサルタント・オブ・ディファレンスワールドの求人に応募いただき、ありがとうございます!」
「って、おい、今やったろ!勝手にやったろ!」
カナタのツッコミを、どこ吹く風と受け流し、男は名刺を差し出す。
「わたしくし、コンサルタント・オブ・ディファレンスワールド、略してコンサルタント・オブ・ディファレンスワールドで代表取締役社長をしております、オオトリと言います。以後お見知りおきを。」
「うん、会社名、全く略していないよね。繰り返しただけだよね。」
「では、この度はご入社おめでとうございます。入社後の仕事の流れをこれから説明致します。」
「まだ、入社すると言っていないし、応募もしていないよね。応募はあなたが勝手にやったことだから。」
カナタがまっとうに突っ込むと、
「大丈夫です。あなたは当社に入社しますので。その面倒なやりとりを省略した、いかにもコスパのよいやり方だと思いませんか?」
「入社しないし、思わないし。」
強引な話のもって行き方に、カナタが冷静に突っ込む。
「では、簡単に会社の概要を説明しますと、社名のとおり、なんやかんやのコンサルタントをしております。多くの方からの信頼を得ており、ぜひ即戦力として、正義感に熱いあなた様を当社に迎え入れたいと思っております。」
「まあ、そう言われて悪い気はしないんだけど。」
「大丈夫です。皆まで言わないでも。あなた様が前の職場で、持ち前の正義感のために、解雇されたことなどは全く気にしません。そういった実直な人材を当社は求めています。」
「おい、その情報どこから仕入れた。個人情報ガバガバだな。」
「当社は福利厚生面でも手厚く葬らせていただいていますので、ご安心を。」
「手厚く葬っちゃダメでしょ。」
「ということで、当社にようこそ♪」
「ハイ、お帰りはあちらです。」
そういって、カナタはオオトリをドアの外に放りだそうとした。
「せめて仮入部でもしませんか?正式な契約はそれからでもいいですから!」
「部活かサークルのノリだな。怪しい臭いしかしないんだが。」
「カナタさん、今、無職でしょ!暇でしょ!時間持て余しているでしょ!」
「なんか、そこまで言われると、むかつくな…。」
そういう押し問答を小一時間続けた結果、カタナは結局一度だけ仕事を手伝うことにした。
会社説明を改めて聞くと、
こちらの会社は、名前のとおりコンサルタント会社であり、クライアントからの依頼を可能な限りなんでも引き受けるとのこと。
会社としては、勤務時間は原則8~17時、フレックスタイム導入あり。残業代100%保証。労災もあり。
条件を聞くと至れり尽くせりだが、業務内容と、このオオトリという人物が怪しすぎる。
(まあ、事実暇だし、ちょっと面白体験をしてみるか。)
そう軽い気持ちで承諾してしまったカナタだが、それが彼の運の尽きだったのかもしれない。
「では、こちらのブレスレットをどうぞ。」
オオトリはカナタに特にこれといった特徴の無い、シンプルな銀色のブレスレットを渡した。
カナタが何か得体のしれないものを扱うように、そのブレスレットをつまんで警戒していると、
「これで、勤怠管理を行いますので、申し訳ないのですが、必ずつけていただいております。」
そういわれると、怪しげだが身に着けるしかない。
そう思い、カナタは右手にブレスレットをはめた。銀色に鈍く光る感じだが、シンプルで悪くはない。
だが、やはりトラップはあった。
「あれ?外れない?あれ?」
「あ、言い忘れたのですが、一度身に着けると、一生外れませんのでご注意を。」
「あ、やっぱり、そういうものがあったのね。」
オオトリのアッサリとした回答に、カナタは自らが警戒を怠ったことを多少後悔しながらも、半ばあきらめの境地にいた。
「では、ブレスレットの扱い方ですが、ブレスレットに一つだけついているボタンを押してみてください。」
「爆発したりしない?」
「爆発はしません。爆発は♪」
カナタの質問にオオトリは含みを持たせる答えをしたが、カナタはおとなしくボタンを押した。
すると、目の前にディスプレイが現れた。
そこにいくつか項目がある。【勤怠管理】、【給与明細】、【社内規約】など。
「ここはカナタさんのマイページになります。ここで勤務状況などが確認できます。ちなみに、出勤の際は、ブレスレットをつけた手を上に突き上げて、『出勤!』と叫んで下さい。声量が小さいと反応しないのでご注意を♪」
「え?」
カナタは絶句した。
「それ、絶対にやらなきゃいけないの?」
「はい、そうしないと、出勤とならないので♪」
カナタは頭を抱えて、うずくまった。
そんな公開処刑みないなことをやらなきゃいけないのかと。
カナタは決してヒーローものは嫌いではない。むしろ好きな人種だ。
だが、さすがにそうした変身ポーズのようなことをするのは抵抗がある(抵抗がない皆様申し訳ありません。)
カナタは覚悟を決めて、
「『出勤』」と少し控えめな声量で言った。案の定反応しない。
「もっと大きな声で!」
「『出勤』!」
「もっと!!」
「『出勤』!!」
「もっと、大きく!!!」
「『出勤』!!!」
オオトリに何度か煽られ、カナタが半ばやけになって叫ぶと、
「ピコン♪出勤確認しました。」
とブレスレットから、反応音がしたのち機械的な声が流れてきた。
「ハイ、お疲れ様です。これで出勤となります。ちなみに、出勤手続きは、先ほどのマイページからもできますので、大きな声が出せないときは、そちらで手続きをしてください♪」
「遊んでいるよね、アンタ、遊んでいるよね?」
カナタがオオトリの胸ぐらをつかみ、詰め寄ると、
「いえ、順序だてて説明しているだけです♪」
相変わらず、悪気の無い返事をしてきた。
(ああ、この人はこういう人なんだ…。)
とカナタはあきらめた。
「それと、他に隠し機能もありますが、それも説明しておきますか?」
「いえ、おなかいっぱいなので、今はいいです。」
カナタは目頭を押さえながら、拒否をした。
「では、続いて、カナタさんにおこなっていただく仕事内容を説明します。というより現地にいった方が早いのでさっそく行きましょうか♪」
「え?今から?」
「ええ♪なので、さっそくスーツに着替えてください。そうですね、持ち物はメモが取れるものがあればいいですかね。名刺はすでに用意してありますので♪」
「うん、なんでもう名刺があるのか疑問だけど、わかりました、用意しますよ。」
カナタは死んだ目をしながら、返事をした。
「で、場所はどこですか?」
「今回は、カナガ王国の国王からの依頼です。」
「え?国王?国王ですか?」
ネクタイを締めていたカナタは『国王』という言葉をきいて、思わず聞き返してしまった。
カナタは以前の会社で、上場企業の社長や会長と何度かやり取りをしたことはあるので、相手の肩書を聞いて気圧されることはほぼないのだが、さすがに『国王』となると、少し気負ってしまう。
「ん?そもそもカナガ王国ってどこですか?そんな名称の国ありましたっけ?もしあったら勉強不足で申し訳ない。」
「大丈夫です。ご存じないのも無理ありませんよ。異世界の王国ですから。」
「あ、なるほど。異世界か。………、って、異世界!!!」
「ええ、言いませんでしたっけ。当社はコンサルタント・オブ・ディファレンスワールド。社名にあるように、異世界のコンサルタント会社ですよ。」
「ちょっと!聞いていないですよ!」
「いや、社名の中で言っているので、それ以上の説明は不要かな、と。ま、察しの良いカナタ様なら、当社の社名を聞いただけで、業務内容は理解していただいていたかと、思ったのですが…。」
オオトリはアゴに手をあてながら、不思議そうな顔でつぶやいた。
「なんか、わたしのことを買い被りすぎなのか、それとも単なるそちらの説明不足を胡麻化しているのかわからないけど、うん、察せなくてスイマセンね。」
面倒なので、カナタはとりあえず謝った。
「で、どうやって行くんですか?」
「ハイ、ブレスレットをした手を突き上げて、『転送』と叫べば…。」
「マイページから『転送』を選べばいいんですね」
さっきいじられたことを学習してか、オオトリの説明が終わる前に、カナタはマイページを開き、操作を始めた。
すると、そこにあったはずのカナタたちの姿は、一瞬にして煙のように消えた。
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