木造橋

 神宮新は海山橋に来ていた。橋と言ったら普通は鋼鉄のものを想像するだろうが目の前にあるそれは全く異なっていた。橋を足踏みして歩きごごちを考える。中に木が詰まった音がした。そう、この橋は木造なのであった。一度、二度と何度か木造の橋を踏み、少し体重を掛けただけでと軋む音が鳴る。この橋、本当に通れるのだろうか?

 そもそも橋と言うならば、馬車が何台か通れるように設計されているらしいから崩れ落ちるはずはないんだけど。それにしても…人が一人載っただけで崩れ落ちそうなほどボロい。谷を覗くと、下は奈落が続く。

 地面が見えないほど奈落は続き、底は真っ暗だ。試しに小石を投げ入れると、何十秒か立ってから水に落ちるぽちゃんという音がなる。落ちたらただじゃ済まない。そう思った。どう渡ろうか、そう思案を巡らせていると、とてもじゃないが渡れそうにないとしか思えてこない。

 ぎしぎしと橋は軋みの音を上げる。そもそも木造ってだけで危険ポイントが高いのに、その上築うん百年ときた。これじゃ、渡り切れる前に奈落に落ちてしまうだろう。

 どうしてそこまでしてこの橋を渡りたいか、だって?

 そんなの簡単だ。新は心霊映像ハンターだった。ウーチューブに撮影した廃墟の映像を投稿することで、少しではあるがお金を稼いでいた。送られたコメントを見る限り、どうやら不可解な霊障めいたものが映された映像もいくつかあったそう。まぁ、そもそも新は自分が撮影した映像は怖いので見返すことをしていない。動画の編集も動画の収益であるなけなしのお金を少し渡して、友達に編集を頼んでいる。それぐらい、新は幽霊が嫌いだった。では、なぜ新は廃墟に一人で赴くことができるのか、それは幽霊を一ミリたりとも信用していないからである。幽霊なにそれおいしいの?と思い続け、幽鬼、魑魅魍魎の類を理解の埒外へと追いやって止まなかったのである。人の理解の外にあるものは信じない。自分が幽霊を見たりしたのならば、確かに少しは信用に足るのかもしれない、がそもそも動画を見返さないことで自ら信じようとすらしないのである。

 遂に木の橋に足をつける。これでもし橋が崩れれば、新は奈落行き、確実に助からないだろう。

 それでも新にはそれにトレードできるだけの廃墟愛があった。廃墟の空虚感、そして退廃感、命を賭すだけの価値を見出していた。新はにやりと微笑んだ。

 そうして難なく一人で壊れかけの橋を渡りきったのであった。帰り道でもう一度橋を渡らなくてはいけない恐怖に耐えなければいけなかったのはまた別の話。

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