掌編小説・『くノ一・疾風迅雷の飛鳥』

夢美瑠瑠

掌編小説・『くノ一・疾風迅雷の飛鳥』

(これは「雷の日」にアメブロに投稿したものです)



   

 私は、「疾風迅雷の飛鳥(しっぷうじんらいのあすか)」という異名を持つ、名うてのくノ一なのです。密命を帯びて、漆黒の闇に暗躍する甲賀流の女忍者・・・そう、山田風太郎さんの「甲賀忍法帖」に出てくるような美貌でセクシー、妖艶なくノ一、といったらイメージが湧くでしょうか?

 あるいは天野喜孝さんのイラストみたいなイメージ?

 といって、これは江戸時代とかの日本歴史の中の話ではなくて、ファンタジーの異世界が私の活躍の場なのです。


 敵は幕府の侍とか怪力の雲水とかではなくて、妖怪変化というか、人間のイマジネーションとか精神の暗い闇とかが産み出した様々な異界ファンタジーに登場する異形のモンスターたちなのです。

 スライムとか、コボルド、オーク、エルフ、ヴァンパイア、スペクター、グール、マミー、イフリート、キメラ、オーガ、ガーゴイル、リリパット、ドラゴン・・・

 世界中の神話や伝承や物語などに出てくる怪物たちと丁々発止の戦いをするくノ一。RPGとかに出てくる一人称の分身、それが私なのです。面白いでしょ?

(*´艸`*)


 だから当然に武器とかもただの鍛鉄の手裏剣ではなくて、「影縫いの手裏剣」(忍者系の敵の動きを止めるというスペシャルパワーがある)とか、「風魔の手裏剣」

(風魔一族ゆかりの闇のパワーを持つ)とか、「神速の手裏剣」(素早く何度も攻撃を繰り出せる)とか、あるいは「忍びの鎖鎌」、「ドラゴンテイル(鞭)」、「マインゴーシュ」、「ソードブレイカー」とか、そういう幻想的な名称の神業的に強力な武器を使っているのです。

「ハリーポッター」みたいにファンタージェンワールドというのは、人間の空想とか妄想の産物なので、現実の中に入れ子の虎みたいに複雑に絡み合う位相で存在しているのです。小説や、二次元のそういうアニメやCGで表現された異世界とかは、もはやおとぎ話ではなくて、夢のようなもう一つの現実で、あるシグニフィカントなアレゴリーを持っているに違いない。血と肉の存在より、「意味」とか、「存在感」が重ければ、もうそれは現実の存在を凌駕している何かだと思うのです・・・


・・・ ・・・


忍者でも結構ダサい重装備の人もいるのですが、私は極端に軽装備で、動きやすい黒装束のみをミニマムに纏っています。

 顔は隠しますが、髪は高く結い上げたポニーテール。これは行動的な女子のトレードマークですね?


「疾風迅雷」というのは、素早さマックスというのみでなくて、忍術が使えて、それが「サンダーストーム」または「裁きの業雷」という究極魔法だからです。

 これで大抵の敵は一掃できますが、実際に雷雲が近くにないと呼べないのです。

 そこがちょっと不便です。サイキックなパワーを修行で鍛えて、雷雲までも呼べるようになるのが目標なのです・・・


・・・ ・・・


 それはそうと、これからお話しするのは、他でもありません。

 ある日、いつものようにシナリオをこなし、ミッションコンプリートを目指して、化け物たちを蹴散らしていた私は、うっかり敵の奸計に嵌(はま)って、乙女としての貞操の危機に関わる、ひどい事件に巻き込まれてしまったのです!


もしかしたらお嫁に行けなくなるような危機的状況・・・好きな人だっているのに・・・


 そのことの顛末(てんまつ)をお話ししようと思います。(ワクッワク?♡)


         2

 私たちは、ニンジャばかり、それもくノ一ばかり4人の中に、一人だけ回復系の白魔法を使う“賢者”がいるという、そういう5人構成のパーティーで、クエストを解いていたのです。

 その日の舞台は戦国日本を思わす肥沃な山河と深い森で、「ショウグン」とか、「ヤマブシ」、「オンミョウジ」なども出てきました。全て妖怪変化で、そういう外面形態をとっているだけで、実体は怨霊とかゾンビばかりなのです。

 この戦国の日本もどきの場所で、ミカドの命を受けて、モンスターに奪われた三種の神器の一つである“草薙の剣”を、探し出せ、というのがミッションでした。大文字の一人称がプレイしているのは、「SHINOBI(忍)」というゲームで、様々なクエストを解いて成長していったくノ一たちが、独立国家を作り、手なずけた様々なモンスターを自在に召喚して、大名たちを次々に打ち破って、遂には天下を取る。

 幽閉されていたミカドを助け出して、また皇位に就かせる。

 一人称の好きなキャラが(私かも?)“征夷大将軍”に任命される。

 そのキャラらしい個性的なモノローグ・・・があって、それがグッドエンディングらしい。

 ただ、ゲームの「駒」である私たちにはそういうことは、別の次元の話で、雲の上で神様が遊んでいるシナリオで、誰が裏で糸を引いているのやら到底想像もつかない、一種不可思議な?しかし至上の運命?、そういう感じなのです。


・・・ ・・・


 ズジャジャジャジャ~ン♪、と不吉な音楽が響いて、鬱蒼とした森の奥から敵方のニンジャたちが現れた!

 レベル4!われわれは平均レベル6です。ほぼ互角・・・

 まず、“賢者”のミネルヴァが、マジックバリアの魔法をかける。これで様々な異常ステータスを引き起こす敵方の魔法(忍術)は跳ね返せます。

 赤装束のくノ一、“紅蓮”が、まず大跳躍をして、虚空から「まだら蜘蛛糸」を投げ広げる。

 これは敵方のリーダーの鎖鎌の一閃であっけなく切り裂かれてしまった。

 青装束のくノ一、“瑠璃”が、毒の効果を持つ「コブラの手裏剣」を投げる。

 これも、敵のエイジリティーの高いニンジャの手練の技で、見事にカツカツカツカツッと打ち落され・・・たかに見えたが、5人パーティーのうちの一人に命中して、「ううう・・・」と呻いて、一人が落命して脱落した。あと4人・・・

 素早さと運を大幅にアップさせる妖剣・「菊一文字」を装備した、紫装束のくノ一、“桔梗”が、気配を消して斬りこむ。

 見えないくらいの早業で、二人の首を刎ねた。

 斬られながら抱き合うニンジャ・・・「刎頚の友」だったのかもしれないw

 そうして私、飛鳥は、ビュンビュン飛んでくる手裏剣を打ち払いながら、精神集中の効果がある「黒檀の弓」を引き絞って、最も素早い長身のニンジャにスクリューのように回転して加速がついていく、「忍び狩りの矢」を射掛ける!

 躱(かわ)され・・・たかに見えたが、見事に命中していて、ニンジャは頽(くずお)れた。


・・・あとはリーダーだけとなった。


 「ヴィヴァシティ!」ミネルヴァがまた杖を一閃し、声高らかに白魔法を唱えて私たちのかすり傷を恢復させた。しかも私たちは元気百倍になった。

「!?」

 その時、私だけが気付いたのですが、後方に何かおぞましい気配がした・・・


     3

 凄くおぞましい、身の毛のよだつような気配を感じた

 私はさっと身をひるがえして飛び退り、後方に向かって立ち、何があるのか見極めようとしました。

「あっ!!曲者ども!!」

 いつの間に集まったのか、其処には15,6匹の赤黒いオークキングの群れが棍棒を振り回しながらハアハア荒い息をついているではありませんか!

 血走った眼をしていて、興奮しているようです。大方女に飢えた狼みたいな連中で、私たちの撒き散らしている女っぽいオーラとか香りに魅かれて、わらわら集まってきたに違いない。

 一人一人はゴミムシみたいに弱いのですが、こんなに集まると侮れない・・・

 思う間もなく、オークたちは「ラッシュ」してきました。殺到してきた!

 体力と腕っぷしだけはすごい連中で、それによってたかって襲い掛かられると、さすがの私たちも抵抗不能になって、てんでに組み伏せられてしまいました。

「飛鳥!大丈夫?」

「ああ・・・無理だわ。もうダメ・・・こんなに敵が多くては・・・」

 何とか最初の2,3匹は斬り捨てられたのですが、つぎつぎと押し寄せる津波のような波状攻撃に、結局どっぷり呑み込まれてしまった格好でした・・・


「ふひひ、ひ・・・おぜうさんたち・・・べっぴんさんだがや・・・なかよくしようぜよ」

「よ、寄らないで!臭い息ね」!ガシッ!と股間を蹴り上げてやると、「ぎえええ!」と啼いて、もんどりうちました。

「何をしやがる!」とオークキング達は色めき立って、私のところに集まってきました。

「い、イヤ!やめてえ・・・」

 もう、抵抗力が一番弱い金髪碧眼のミネルヴァは、半裸に剥かれて、ハアハア喘いでいます。

 何てこと!許せない!

 私の瞳が炎のように燃え上がりました!時あたかも風雲急を告げる状況に呼応するように、雷鳴が轟(とどろ)きました!今だ!

 私はさっと起き直って、天と地を指して、「天上天下唯我独尊・・・裁きの劫雷!」と叫んだ!

 バリバリバリーーー!!!稲妻がギラッと光った瞬間、すさまじい音がして落雷が起きました。

「ギャー!」と末期の叫びが上がり、邪悪なオーラを放っているモンスターのみが聖なるサンダーボルトに感電して、一瞬にしてオークキングたちは全て黒焦げになりました。


・・・間一髪、私たちは助かったのです。



「危なかったな」と、さっきのニンジャのリーダーが近寄ってきて笑いかけました。

 なかなかかっこいい人です。

「われわれは物語の中のキャラクターだからなかなかシナリオから離れられないんだが、一人称のプレイヤーがやらしい妄想をするとゲームの中と言っても妙な現象というか突発的な事件が起きたりするのかもしれない。ファンタジーゲームとかするのはオタクが多いから大体妄想の塊みたいな野郎がけしからんことを考えたりするんだろうな」

「迷惑よね」セクハラされたのに怒って、私たちは唇を噛みました。

「そうよそうよ」「出歯亀ね」

「度々こんなことがあるなら私は辞職して修道院に帰ります」

 顔を赤らめて、乱れた「天女の羽衣」を直しているミネルヴァも抗議した。

 もし雷雲が来なかったらどうなっていたことか・・・考えるだにおぞけを揮(ふる)います。


・・・ ・・・


天空の果ての?モニターのこちら側では、「一人称」も、「ごめんなさい」といって赤面して、聞き分けのないジュニアを叱責していた。



<終>

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

掌編小説・『くノ一・疾風迅雷の飛鳥』 夢美瑠瑠 @joeyasushi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ