第22話 幼女、温泉に入る
「おしろ、みえてきたぁ〜!」
視界に、懐かしの我が家(城)が見えてきて、ようやく、気持ちがほっとしてきた。
そして、その姿が大きくなればなるほど、帰ってきたんだなあ、という安堵感が胸を占める。
国選勇者の断罪に、独立宣言。
家族や、アスタロトと一緒とはいえ、かなり大変なことをこなしてきたと思う。
そして、共感して、ついてきてくれた人が無事であるかを気にかけて。
私は、身も心も、すっかり疲れて疲れてしまっていた。
「カインにーしゃま。りりしゅは、ちゅかれまちた」
私を抱きしめてくれているカインお兄様に、疲れたことを告げる。
「そうだね、リリスは小さいのに、一緒に頑張ってくれたよね」
そう言って、カイン兄様は、私を労るように、解けた私の髪を指で梳きつつ、撫でてくれる。
「うん、おうちについたら、やしゅみたい、でしゅ」
子供っぽくてもいいや、と割り切って、私は、こてんと、カイン兄様の胸に頭を預けた。
そうして、ニーズヘッグが、城の屋上に着陸して、ようやく我が家へ到着した。
アスタロトが、報告のために来訪しているらしく、客間で待ってもらっているそうなので、家族全員で、そちらに向かうことになった。
私は、カイン兄様に抱っこされたままで、お任せである。
時々、アベル兄様がずるいとでも言いたげに、視線をチラチラとカイン兄様に向けているけれど、鎧をきたアベル兄様では、抱かれ心地が悪いので、そこは我慢して欲しい。
「アスタロト殿!」
お父様が先頭を切って扉を開けると、ソファに座って待っていた様子のアスタロトが立ち上がって会釈をする。
「貴殿に同調した貴族の皆さんの帰郷も、完了しました。こちらはひとまず、一安心という感じですわ」
アスタロトが、協力してくれた貴族の家族の避難状況について報告をしてくれる。
「おお! それは本当に恩に切ります。あなた方魔族のお力添えなしに、あれだけの迅速な避難はあり得なかった。本当にありがとうございます!」
そう言って、お父様がアスタロトに頭を下げた。
「国王になられる方が、そんなに簡単に頭を下げてはいけませんわ」
そう言って、アスタロトが、お父様の両肩に軽く触れて、下げた顔を上げさせる。
「はっはっは! なかなかそうは言っても切り替えが難しいですな」
お父様が笑顔で後頭部を掻く。
そんな中、アベル兄様が提案する。
「父上、アスタロト様もいらっしゃいますし、感謝と慰労を兼ねて、我が家の自慢の『温泉』にご案内してはどうでしょう?」
「おんせん、ですか?」
アベルお兄様の言葉に、『温泉』を知らないのか、アスタロトが首を傾げる。
「地下から湧く湯のことです! 我が家の温泉は、疲労や肌が美しくなるという効能のある湯をたっぷり使った贅沢なものなのです! 是非、お入りにください!」
「じゃぁ、リリスも、アシュタロトといっしょに、はいりゅ〜!」
私は、アスタロトと一緒に女湯に入ろうと思って、手を挙げる。
すると。
「「「えっ」」」
お父様、お兄様達から、異論の声が上がる。
「リリスはまだ小さいんだから、父様と一緒でいいだろう?」
「そうだ! 小さい頃は一緒に入ったじゃないか!」
「そうだよ、僕達と一緒に入ろう」
ーーあの。私は心は十五歳なんですけど。
私は、無言で、ぷーっと頬を膨らます。
そんな親子のやりとりを、微笑ましげに眺めていたアスタロトが、その騒ぎに割って入る。
「リリス姫は、見た目は子供でも、既に一度十五歳を迎えた年頃の少女ですから。流石にお父様、お兄様と一緒に入るのは、恥ずかしいのでは? ね?」
そう言って、しゃがんで私に手を差し出してくれる。
「うん!」
私は、その助け舟に乗って、彼女の手をとると、軽々と抱き上げられる。
「場所を教えてくれるかしら?」
アスタロトが私に尋ねると、そばにいた侍女が、案内を申し出てくれた。
そして、私達は、がっくりと肩を落とす男性陣を後にして、女湯に二人で入ることになったのだ。
ーー助かったわ!
かぽーん。
うちのお風呂は広い。そして、お湯が地下から汲んだ温泉だから、指先までじんわりと温まるのだ。
そして、広々とした浴槽にたっぷり入ったお湯から、湯気が浴室内に立ち込める。
「はぅ〜。ちゅかれが、ぬけましゅ〜」
「本当ねえ。湯浴みとはだいぶ違うわ」
アスタロトも気に入ってくれたようで、お湯に浸かった後の滑らかになった肌に、感心したように何度も撫でている。
「ん〜。およいじゃおう、かしら!」
どうせ子供に戻ったんだもの、そんな悪戯もいいわよね! と思って泳ごうとすると、アスタロトに易々と抱きしめられて、捕まってしまった。
「こら! 最近心まで子供っぽくなっちゃって!」
「むむ。やわらかい、でしゅ」
抱きしめられたアスタロトの胸は豊満ですべすべで、柔らかく、その感触が気に入ったので、しばらく捕まったままで、彼女を枕にして、お風呂を堪能したのだった。
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