第21話 空の上から
ニーズヘッグに乗って帰ってきたので、帰りはあっという間だ。
やはり大型竜というのはすごい!
カインお兄様は、お父様が演説を、アベルお兄様が勇者達を確保する中、私達側についた貴族から、お名前と領地の聞き込みをしていたらしい。
ニーズヘッグの上から、下に見える大地を眺めながら、国境線はこんな感じ……、と、どうして持ち込んでいたのか不思議なのだが、地図に線を引きながら、これからの事をすでに考えているようだ。
「リリス、見てごらん」
カインお兄様に抱きかかえられながら、その線を引いた地図を見せられる。
その線によれば、あちらの王国の領土は、王国領と教会の荘園と、幾ばくかの貴族の領土を残して、大半が、私たちの新たな王国の領土となることが示されていた。
「ほら、下をごらん。あの山から、あそこを通って、そして、あの端までが、これから治めて行かないとならない領土だ」
カイン兄様に促されて、地上を眺めると、これから、お父様の王国の領土となる土地は広かった。
そして、蟻の群れと言っては失礼なのだが、そんなサイズの人々が、一生懸命に移動しているのが見える。
「しあわしぇに、してあげなくちゃ、ね」
お父様に呼応してくださった貴族と、その臣民をその期待にどおりに幸せにしないといけない。
「責任重大だよね」
そう言って、カイン兄様は、風にたなびく私の前髪を優しく撫でた。
「リリスは可愛いのに、賢いね」
ーーえ? 兄様。私は十五歳なんですけど!? 最近引きずられつつあるけど、中身は十五歳よ!?
「父上」
「どうした、カイン」
私が心の中で抗議していると、今後はカイン兄様が、お父様に声をかけた。
風に煽られる地図の形を整えながら、抱きしめている私の前で地図を広げて、お父様に見せる。
「我々に賛同してくださった、領地持ちの貴族は、こんな感じです。いずれは、この線に沿って防衛壁と要所に砦の建築が必要になるかと思いますが……」
「今はまだ、地上から、我が領や、己が領地へ戻ろうとするものがいるからな。しばらくは、砦なしで、防衛しないとならんか……」
地図に引かれた長い線を見て、お父様が、うーむ、と唸る。
そりゃあ、これだけの長さの壁を作るのも大変そうだけれど、壁を無しに防衛するのはもっと大変。
「まあ、あっちの国王軍に、……というか、あちらの国王軍が瓦解してますけどね……」
「ふえ?」
それはどういうこと? と思って私の口から、変な声が出た。
「元軍務卿と騎士団長殿も、我ら側につきたいと申し出があって、今頃移動中のはずなんだよ。とすると、あとは教会の聖騎士団くらいかなぁ。彼らは熱心な信者でもあるはずだから、よほどのことがないと、離反はないだろうね」
そして、よしよし、とカイン兄様に頭を撫でられる。
うーん、それは、碌に戦力が残っていないだろうなぁ。
ーー憐れ、元国王陛下。
あ! 勝手に『元』ってつけちゃった!(笑)
そんな会話を親子でしていると、前方から声がした。
「それ、領地にお届けしたら、私がお役に立てないですかね?」
ニーズヘッグだ。
「ちょっと今は飛行中なので、新しい境界線とやらを確認できませんが、ご領地に到着次第、今度は、上空を飛行しながら、こちらに向かって避難してくるみなさんをお守りしますよ」
ーーえ、それ、むしろ怖くない?
「おっきな、りゅう、みんな、こわくない?」
だから、心配になって聞いてみた。
「私は喋れますし、辺境伯閣下の姫君の僕だと語りかけながら、上空を飛ぶだけです。勿論、外敵は排除しますけどね。それであれば、皆さんもわかっていただけないですかね……。それと私はそんなに怖いですかね……」
ちょっと首をうなだれて、しゅんとするニーズヘッグが可愛い。
「いや、凹むことないぞ、ニーズヘッグ!」
そう励ますのはアベル兄様。
「正確にはリリスの眷属だろうと、国に、守護竜がいると見せかけるのは、敵に対する大きな牽制になる! 俺を乗せて共に声がけすれば、民は安心するんじゃないか?」
そうして、アベル兄様が、ニーズヘッグの鱗をペシペシと叩いた。
すると、ニーズヘッグが嬉しそうに、ガオーッて鳴いた。
そういえば、ニーズヘッグって、いつも人の言葉で喋ってくれるから、鳴き声って初めて聞くかもしれない。
「ふむ、そうすると、ニーズヘッグとアベルで、暫く馬や徒歩での避難民の移動が済むまでは、彼らの見守りを頼みたい」
お父様が、ニーズヘッグの鱗を叩きながら、アベルお兄様に、頼んだ、とでも言うように視線を向ける。
みんな、無事に移動できるといいな。
そう願いながら、私たちは空から自分たちの城へ向かうのだった。
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