第20話 帰還

「ここに、私に共感してくださる方々とともに、フォルトナー家は、独立国家となることを宣言する!」

 お父様の言葉に歓声が上がる。


 そんな中、混乱する貴族達を、私は誘導する。

「なかまは、おとーさまのほうに、きて」

 その言葉に、フロアにいる貴族達が、綺麗に二つ割れた。

「バリア、ちて」

 その言葉に、大聖女フェルマーが頷いて、我々に賛同してくれた貴族とそうでない貴族を隔てるように、かなり厚い防御障壁を展開してくれた。


「なっ、な……」

 国王は、きっと、「謀反ものは捕らえろ!」などと言いたかったところを、先手を打たれたというところだろう。顔を真っ赤にして、何事か喚いて憤慨している。


 そこに、退避に協力してくれる約束だったアスタロトがやって来る。

 大人の魔族が現れたことに、一瞬動揺するものもいたが、そこを『大聖女ファルマー様』が優しい笑みを讃えて、安心させる。

「皆様、あのかたは、お味方。私が保証しましょう」

 そういうと、改めて、アスタロトの方に貴族達が注目した。


「皆様の中に、ご家族を王都に住まわせていらっしゃる方はいらっしゃいませんか? 我々の飛竜を使って、迅速に皆様のご領地までお運びいたしましょう!」

 アスタロトがそう叫ぶと、貴族達が喜びの声をあげる。

「確かに、早く逃さねば、人質に取られてしまう!」

「そこまでのご配慮をくださるなんて!」

「やはり、義のある方々だ!」


「さあさあ、皆様方、避難しますから、こちらへ。それぞれ担当の者をつけますから、ご家族の居場所までご案内ください!」

 アスタロトの声に誘導されるように、貴族達が一人また一人とフロアから立ち去っていく。

 しかし、国王達は、それをただ手をこまねいて見ていることしかできないでいた。

「くっそー! だったら裏切り者の家族を見せしめにしてやろうと思ったものを!」

 そう叫ぶ国王の声に、さらに、国王から離れるものがいたのに、彼は気付きもしなかった。


「戦争じゃ! 戦じゃ!」

 国王は叫ぶものの、その仕切りをすべき宰相はいない。しかも、軍務卿といった主だった官僚達も、いつの間にかいなくなっていた。


 賛同する貴族達を全て非難させてから、私たちは城の外に出る。

 飛竜での避難は、家族が限界。

 だからだろうか、使用人達と思われる人々の群れが、馬車や馬、徒歩で王都から出てゆくようだ。

 そして、家族を呼び寄せた貴族が、一人また一人と、飛竜で飛び去っていく。


「アスタロト殿の協力のおかげで、こっちも大丈夫そうだな!」

 お父様は、味方の貴族達に被害が及ばずに済みそうな状況を確認して、ほっとした顔をする。

「じゃあ、俺たちも、を連れて、一度帰るとするか」

 そう言って、アベルお兄様が、床に転がされている勇者達三人を軽く蹴飛ばした。

「父上、王都の館の貴重品を引き上げてきました」

 そう告げるのは、カイン兄様。手回しがいいわね。


「わたしは、もう、ちゅかれまちた」

 マーリンに抱かれたままの私は、彼の腕の中で、ため息をつく。

 色々ありすぎて、疲れちゃったわ。

 そんな様子を見て、皆に笑みが溢れる。


「じゃあ、私が皆様をまとめてお連れしましょう!」

 ニーズヘッグが、小竜姿でぽん、と胸を叩くので、本来の姿に戻れそうな広さの場所を探す。

 そして、彼は元の古竜の姿に戻った。

「さあ! 皆様を、ご領地にお運びしましょう!」


 馬車は、連れてきた御者が、「後からお持ちします!」と言ってくれたので、護衛用に騎士をつけて、後から追いかけてもらうようにした。


 私達は、ニーズヘッグに乗って、安全に辺境領、いや、フォルトナー王国へ戻ったのだった。

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