第19話 独立宣言

 会場がざわついている。

 そして、壇上にいる、国王陛下と枢機卿は、まさかの事態に顔が真っ青だ。

 なぜか、その横で、宰相閣下が平然とした顔をしているのが気になるけれど……。


「勇者の身柄引き渡し……」

「いや、娘を殺されかけたんだ、当然だろう」

「そもそも、本来の命もこなさずに何をやっていたんだ、あのクズは……」


 勇者ハヤト達を非難する声でざわつく。

 そのざわついた会場内に、国王の震えながらも大きな声が響く。

「その勇者は、我が国と教会の威信をかけて、異世界から呼び出した勇者だぞ! それを、引き渡せとは、辺境伯風情が、なんたる傲慢!」

「ほう、言いましたね」

 お父様がニヤリと笑う。


 そんなお父様の横に、カインお兄様が歩み寄る。

「勇者って、陛下……。それ、犯罪者ですよ?」

 そう言って、カインお兄様はアベルお兄様に足を挫かれ、床に尻をついているハヤト達を顎でしゃくる。

 すると、何を思っているのか、宰相閣下が口を開く。

「閣下の御子息がいうことの方が、法的には正しいですな」


 再び会場がざわつく。


「我々臣民は、度重なる増税と、勇者の横暴により疲弊している。挙句に、そもそも、魔族側からの侵攻も一切ないにも関わらず、王と教会の威信を誇示するために、犠牲を払ってまで勇者を召喚し、無駄な戦争を仕掛けている!」

 お父様が、そのざわめきさえも蹴散らす、よく通る低い声で朗々と演説する。


「皆! 知っているか! 勇者召喚には、大勢の魔術師の命の代償が必要だということを!」


 そこで一気にざわめきがさらに大きくなる。

「なんと……」

「臣民の命をなんだと思っているのか……!」

「税だってそうだ、あれじゃあ、領民は生きていけない!」


 そのざわめきが、少し収まったところで、宰相閣下が、声をあげる。

「国王陛下。愛妾のおねだりに浪費するのはおやめくださいと、何度も進言しましたね。そして、枢機卿閣下、閣下もです。美少年を侍らすのはご勝手ですが、浪費も度が過ぎました」


 そして、宰相閣下は、壇上から降りてきて、お父様の隣にやってくる。そして、臣下の礼を執った。

「以後、私は閣下にお仕えさせていただきたい」

 うおおおお! と一気に会場が騒ぎ立つ。

「だったら、私もだ!」

「こんな国は、お断りだ!」

「辺境伯!」

「閣下!」


 お父様の周りを、多くの貴族が囲む。


「我が辺境伯家は、一国家として独立する。そして、魔族とは争わず、同盟を結ぶことにする! 彼らに我々を害す思想はない! 彼らが邪悪であるという教えは、教会の洗脳に過ぎない! この考えについて来れるものは、我と共についてきてほしい!」


 朗々とお父様が宣言すると、わあああああ!っと歓声が上がる。

「私は、フォルトナー閣下についていく!」

「フォルトナー独立国家、万歳!」


「魔族に……、悪魔に身を売った男の甘言に騙されるでない!」

 枢機卿が慌てて事態の収集を図ろうとするが、それに同調する貴族もいない。


「サモン、エインヘリアル」

 私は、数名の英霊を呼ぶ。

「だっこして」

 そして、腕を伸ばして、大賢者マーリンに抱きあげてもらう。

「みんな、まんなかに、いきましゅ」

 私の指示で呼び出された英霊達と、ホールの中央に向かう。


「え! あのお姿は賢者マーリン!」

「英雄ガレス殿まで!」

「大聖女様もいるぞ!」

 中には、かつての英雄達の信奉者もいるのか、膝をついて祈り出すものまで現れる。


「ね、フェルマー。わたしのツノ、みえりゅように、ちて」

 私は、大聖女フェルマーに、髪を解くよう頼んだ。

「良いのですか? せっかくお綺麗にまとまっているのに」

「うん」

 すると、フェルマーは器用に私の髪を解く。

 そして、私の頭に小さなヤギのツノが現れた。

「我が名は大賢者マーリン。死して英霊となり、今はリリス殿をマスターとして仕えるものなり!」

 まさかの、かつての英雄の出現に、シンとする。

「リリス殿は、あの勇者に欺かれ、命の灯火も消えようという時に、魔族に救われた。この茶番劇の被害者は、姿が変わったとしても、生きておられるのだ!」

「オレたち、リリス様の、しもべ」

 ガレスも辿々しいながら宣言する。


「……英霊を僕に」

「しかも、魔族とも友好的にされている……」

「……勝負など、明らかじゃないか」

「そもそも、この王国の施政者には義などない!」

「立つべき方が、決起なされたのだ!!」


 あっという間に、宰相閣下をはじめとした大半の貴族がお父様側につき、そちらへ移動する。

 国王側に残った貴族は、ごく僅かだった。

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